プロが教える住宅の植栽


おわりに


 2007年8月に『住宅エクステリアの100ポイント』を出版させていただいてから3年余りが経ちました。前著では、エクステリアの一部としてしか説明できてなかった植栽部分を各ゾーンごとにより掘り下げ、インテリア観葉植物を含め、テイスト別のより具体的な樹種選定等、住宅植栽に特化した形で書かせていただきました。

 「住まい」というのは決して建物内部のみではなく、エクステリア、ガーデンを含めた敷地全体が生活の場であるという視点から、最近はユーザーの外部住環境に対しての見方が大きく変化しており、住宅を設計する以上は敷地全体を含めたトータルな視点での計画がますます必要になってきています。敷地全体を計画していくなかでは、エクステリア部分を含め、壁と土間のデザインマテリアルとしてさまざまなフォルム、テクスチュア、カラースキームを持つ樹木、草花などを効果的に使いこなす知識、スキルが必要になるのは言うまでもありません。

 私は講演会や研修の場で「植物は嫌いではないけれど、そんなに好きではない…」という話をすることがあります。できれば植物がすごく好きな方が良いかも知れませんし、植栽の話をする以上そう思われているかも知れませんが、好きとか嫌いという以上に、マテリアルとしての位置付けからの植物の重要性は十分に認識しているつもりです。建築の一部の人はどちらかといえば植物が苦手?というか、そこまでの必然性を感じておられていない人も見受けられますし、製材されたスギ、ヒノキ、トガ(ツガ)の違いはわかっても、山にあるスギ、ヒノキ、トガ(ツガ)の違いは判別しにくい方も多いと思います。しかし、建物の様式、デザイン、テイストに対して、樹木の配植選定次第で建物の演出効果も大きく変わることもありますので、もう少し植物を身近なところに位置付けて、マテリアルの一つとしての認識を持たれることをおすすめします。

 「はじめに」にも書かせていただきましたように、最近はシマトネリコやヤマボウシなどの自然樹形志向のユーザーが増えてきています。そのなかでは、今まであまり使われなかったような「新樹種」と総称されるハイノキ、ナナミノキなど山から来た新しい仲間から、ノルウェーカエデ、フォレストパンジーなどの外来種等さまざまな植物が流通していますし、植木材料業者さえ良く知らないようなものがネットで販売されていたりもします。

 最近は樹木のみではなく、宿根草、一・二年草などの草本性植物(草花)も含め、植栽材料として用いることができなければ、全体計画ができにくい場合もあり、草花類の品種改良等においてはバイオ技術、DNA組換え等もあり、以前にはなかったような花の色や特性を持つ植物がますます増えてきています。いわゆる、樹木から草花に至るまでの緑(植栽)をある一定のレベルで使いこなすスキルが必要になっているということと思われます。

 マテリアルと言っても他の金属やコンクリート、木材などと異なり、当たり前のことですが植物は生き物です。植え込まれた場所の環境から始まり、日常の潅水、施肥、メンテナンス等の関わり方によっても生長や植物の状態は変わりますし、たまには専門家でもわからないような状況になったり、まだまだ不思議な部分も兼ね備えています。植物の持つ環境保全等の機能的効果や建築的、審美的効果だけではなく、植物に接することにより自然を感じたり、リラックス、癒しの効果、また、生物(虫、昆虫、野鳥など含め)に対する想い…など、日常の住宅という生活の場を通じてそこに住む全ての人が植物に対し、さまざまなものを感じていただければとも思います。

 本書出版にあたりましては、日本建築協会の上原出版委員長をはじめメンバー各位には貴重なご意見と助言をいただいたり、滑w芸出版社の吉田編集長および編集の越智和子氏には見本組、校正などいろいろお骨折りいただきまして感謝申し上げます。本書のなかで掲載した現場写真など各種資料の使用に際してお願いしましたところ、資料提供各位には快諾していただき、ありがとうございました。

 また、私事ではありますが、前著同様、娘の奈緒子には原稿の書き出しから入稿までのパソコン作業等、裏方としてかなりの苦労もかけたと思います。

 このように、多くの方々の励まし、助言、協力をいただきまして本書が出版されることになりました。皆様にはこの場をお借りしまして、心より厚くお礼申し上げます。
2010年10月
藤山 宏