一級建築士設計製図試験
エスキースアプローチ



あとがき


■手で考え、心を鍛える
 おそらく、この一級建築士製図試験が手で考える最後の練習になる方がほとんどでしょう。
 日本にとって手仕事がいかに大切なものであるかを訴え、日本がすばらしい手仕事の国であることへの認識を呼びかけた民藝運動の創始者、柳宗悦(1889-1961)は、私が敬愛する方の一人ですが、彼はその著作『手仕事の日本』の中で「そもそも手が機械と異る点は、それがいつも直接に心と繋がれていることにあり、(中略)手の仕事は心の仕事だと申してよいでありましょう」と書き残しています。
 本当に大変な修養を積まねばならない試験となってきているのが実状ですが、何より、普段の皆さんのひたむきで前向きな合格への意志を固めていただき、手を通じて心を鍛え、どんな課題であっても動じず全力を出しきって栄冠をつかまれることを祈っております。

■新しい動きの中で
 本書は、平成12年に始まったひとつのメールマガジンがきっかけとなって実を結んだ、全く今までになかったタイプの製図試験対策書です。この企画が実現できた背景には、2,000名を超える読者の方々の支えと共に、平成12年度、13年度製図試験の再現解答をメールマガジンの読者の方々から提供していただいたことにあります。今まで小さな組織では、真剣に再現された良質の解答図面を何十枚もそろえることは到底不可能でした。そのため、試験後の情報は専門学校の寡占状態が続いていたのが現状でした。そういう意味で、インターネットという媒体を通じて、若干でも新しい動き、よりアクティブな状況が作れたと思っています。この場を借りまして読者と図面提供いただいた方々にあらためてお礼申し上げます。
 また、このような私どもの試みについて、学芸出版社の編集者である村田譲さん、知念靖広さんには、本当に大きな心で受けとめていただき、前向きな取組みと多くのアドバイスをいただきました。多くの方々の想いと協力がなければ、本書が世にでることはなかったと思います。重ねてお礼申し上げる次第です。