地方都市を公共空間から再生する
日常のにぎわいをうむデザインとマネジメント



まえがき


 本書は、衰退する地方都市を公共空間から再生するための具体的な方法や考え方についてまとめたものである。特に地方都市が日常の「にぎわい」を取り戻すことの重要性を示すとともに、そうしたにぎわいをうみだす公共空間のデザインとマネジメントの要点を具体的な事例を交えて詳述している。また、実践的な知見をできるかぎり「分かりやすく」「深く」伝えることを念頭に、多くの写真や図表を用いて、筆者自らが経験した現場での成功例と失敗例を紹介している。
 まず導入編となる第1章で、地方都市の現状と地域活性化のための公共空間整備に求められる考え方を整理し、日常的なにぎわいをうむデザイン手法について論じている。最初の章ということもあり、ここでは活性化やまちづくりに関わる筆者の思想的な背景を述べるとともに、今後の地方都市活性化に求められる評価の方法についても提案した。
 第2章から第4章は、公共空間整備の事例を中心とした実践編である。第2章では、第1章で述べた考え方やデザイン手法の実践例として、実際ににぎわいを取り戻した福岡市の警固公園再整備事業のプロセスをその成果とともに示している。第3章では、地方都市の抱える課題をより鮮明に述べたうえで、課題解決のための方策と具体的な手順を、公共空間の再整備計画(廃校の利活用、中心市街地活性化のための拠点づくり、目抜き通りの再生)の事例から具体的に解説する。第4章では、生き残りをかけた地方都市のブランドづくりをテーマに、そのための公共空間整備のあり方を、実務的な設計・施工上の工夫、近年注目を集める世界遺産登録、風景の保全に向けた仕組みと新技術に加え、活性化に向けた社会実験の実例を通じて詳述している。
 第5章では、これまでの日本の公共空間の現状を相対的に見るため、アメリカ地方都市の公共空間のデザインとマネジメントを事例検証し、我が国への示唆と有益な知見を明らかにしている。最後の第6章では、地方都市を公共空間から再生するための市民参加と合意形成について、問題提起も交えながら考え方と具体的な方法論を、ワークショップやコミュニティ・デザインの手法をもとに解説している。
 以上のように、本書は相互に関連性を持つ章構成となっている。同時に、各章の内容それぞれ完結しているので、読者の興味にあわせてどの章から読み進めて頂いても一向に構わない。また本書は、地方都市を公共空間から再生するうえで重要となる基本的考え方から、ややマニアックな技術の話まで、いわば一挙両得を目論む内容となっている。これは本書が主に地方都市や公共空間に興味を持つ学生や、地方都市の再生に奔走する現場の実務者、両方に読んで頂きたい気持ちの表れであり、何卒、ご笑覧頂きたい。
 地方都市にとって何が問題視され、いかなる再生が求められるのか? そして公共空間にできることは何なのか? そのためにはどのようなデザインとマネジメントが求められ、留意すべき点はどこにあるのか? そうした問いかけに、本書が少しでもこたえられていることを切に願う次第である。
2017年10月
柴田 久