地方都市を公共空間から再生する
日常のにぎわいをうむデザインとマネジメント



あとがき


 まずは本書に最後までお付き合い頂いた読者の皆さんに、心から感謝を申し上げたい。本書は筆者がここ十数年で取り組んできた、現場での経験や研究活動の成果を取りまとめたものである。
 微力ながら筆者が景観やまちづくりの専門家として活動してきたことは既に読み取っておられると思う。筆者はもともと「景観と人との関係」に興味があり、少々青臭いことを言うようだが「美しく魅力的な景観には人が笑顔で居心地よく過ごしている様子が不可欠である」と考えていた。そのため、より多くの人々の笑顔を引き出し、豊かな活動を生み出せる場所として、公共空間の可能性に着目するようになった。公共空間が美しく、居心地よく、多くの利用がある状況をつくりだすことが、特に都市の景観形成にとっては重要なポイントであると考えている。
 一方、筆者は多くの地方都市で景観やまちづくりの仕事に携わるようになり、地方都市が抱える様々な実情に直面することになる。人が減っていく、お金がないなど、暮らしている人たちの多くから、諦めの様子も見て取れた。また公共空間に幻想を抱く人も多く、「公共なのだから役所に任せておけば良い」「税金を使うのだから、言えば何でもやってくれる」などの言葉もよく聞いた。逆に「公共空間など何もできやしない」と失望している人にもたくさんお会いし、叱責を受けたこともある。
 筆者は、そうした幻想や失望の意識を少しでも変えたかった。そして、そのためには暮らしている人々が日常的に目にする公共空間のデザインとマネジメントを、意識変化の機会として作用させることが重要だと考えるようになった。だからこそ、地方都市の再生にはまず、まちの現状と課題を暮らしている人々とともに冷静に話し合うところから始めるべきだと考えている。さらにまちを楽しくしたいと一念発起する人たちを全力で支援し、成果を着実かつ戦略的に積み上げることで、まち全体への波及効果を目指す努力が求められる。地域らしさとともに洗練された本物の公共空間が整備されていくことで、そこにしかない地方都市のブランド化と市民の愛着、誇りを取り戻し、幻想や失望からの意識変化にも貢献できるのではないか。引いてはそれが魅力的な地方都市の景観形成にもつながると考える。本書にはそのような思いを込めたつもりだが、本書をきっかけに、地方都市を公共空間から再生する仕事や活動、取り組む仲間が少しでも増えてくれることを心から願っている。
 言うまでもなく筆者が本書を執筆できたのは、書中に記せなかった事例を含め、多くの現場や研究活動でご協力、ご指導いただいた方々のおかげである。また本書で紹介した事例の多くは福岡大学景観まちづくり研究室のメンバー(卒業生を含む)とともに携わったものであり、掲載した図などは、彼、彼女らの協力によって作成されている。なお本書の執筆期間における写真の整理や図版等の作成には、景観まちづくり研究室アシスタントの原田麻里氏、大学院生の遠藤侑輝君、吉田奈緒子君にご協力を頂いた。ここに記して謝意を表したい。
 また本書の編集を担当して頂いた学芸出版社の井口夏実氏には常に的確なご意見とサポートを頂き本当にお世話になった。古野咲月氏には、煩雑な編集作業を丁寧かつ円滑に遂行して頂いた。心から感謝を申し上げたい。
 最後に本書の執筆時間を確保するために、家族には大変迷惑をかけた。感謝の気持ちと共に、子どもたちの暮らす地方都市の未来が少しでも明るくなってくれることを願いつつ、本書を閉じたい。
2017年10月
柴田 久