モクチンメソッド
都市を変える木賃アパート改修戦略




 モクチン企画は、木造賃貸アパート(木賃)を重要な社会資源と捉え、再生することをミッションに掲げた建築系のソーシャルスタートアップである。木賃アパートは、戦後の経済成長や人口増加を背景に大量に建設され、日本社会を支えてきた住まいのインフラであり、東京や大阪をはじめとした日本の都市部に数多く点在し建っている。ところが現在、こうしたアパートは老朽化、空き家化、災害時の脆弱性など様々なリスクを抱え、周辺環境に悪影響を与える空間装置へと変質してきている。家主や住人の高齢化、未接道による再建築不可、家賃の低さによる経営困難など様々な障害があり、正常な更新が妨げられているのだ。ガン細胞のように静かに負のサイクルが木賃アパート群に侵食し、地域空間を空洞化させている。
 木賃アパートを20世紀の日本社会が残した「負の遺産」として捉えると、こうした状況は絶望的に映る。しかしながら、既にそこにある、大量に点在しているという条件に着目し、木賃アパートの状態を好転させることができれば、その数の多さを利用して、社会に対して何らかのインパクトを与えることができるかもしれない。こうしたことを企図し結成されたのがモクチン企画であり、そのために開発されたのが「モクチンレシピ」を中心とした一連の改修システム/サービスである。モクチンレシピは、木賃アパートを改修するための部分的かつ汎用性のあるアイディアをウェブ上で公開したオープンソースのデザインツールである。家主や不動産業者にアイディアを提供し、改修ノウハウを伝搬させていくことで木賃アパートが漸進的に更新されていく、そうした状況をつくることが目的だ。一つ一つの改修は小さな創意工夫に過ぎないが、それを大きなエネルギーに変え、新たな経済的循環を生み、まちの新陳代謝を促す。そうしたリズムは都市空間をダイナミックで豊かなものにしてくれる。法人化してから4年、これまでに50あまりの物件の改修を直接手がけ、レシピはそれ以上にたくさんの現場で使われ、実現されている。
 モクチン企画のビジョンは「つながりを育むまち・社会」をつくることである。私たちは「つながり=関係性」こそが、21世紀の都市に求められる最も重要なインフラの一つになると確信している。そして、そのために木賃アパートを活用したいと考えている。
 本書はそんなモクチン企画の考えてきたこと/やってきたことを「モクチンメソッド」というかたちでパッケージ化したものである。様々な領域の人に読まれ、多様な批評の場に晒されることを期待している。
 モクチン企画の都市への挑戦は、4畳半の小さな部屋からはじまる。一緒にその可能性を覗いてみましょう。

連勇太朗+川P英嗣