モクチンメソッド
都市を変える木賃アパート改修戦略




あとがき

 「本を出しませんか?」と話をいただいたのが2015年の春。あれから2年があっという間に過ぎてしまいました。最初は今までやってきたことをまとめるだけなので、すぐに書けると簡単に考えていたのですが、その年の11月から本書でも触れたSUSANOOというプログラムに参加することになり、ゼロからモクチン企画の存在意義や目指すべき方向性を問い直す作業がはじまりました。やってきたことをまとめるつもりが、やってきたことを一から問い直すフェーズに入ってしまったのです。さらに、プログラムが終わってからは、モクチンレシピをはじめとしたすべての仕組みを刷新する決断をしました。リニューアル作業はこの「あとがき」を執筆中の今も進行中です(もうすぐリリースできるはず…)。そういう意味で、執筆作業は、活動モデルの刷新作業と合わせて行ったり来たりの繰り返しで、書いたものが次の日には賞味期限切れになるということの連続でした。ただ、別の観点からすると、自分たちのやるべきことが明確になっていくプロセスと合わせて、本書もかたちになっていったと言えるかもしれません。そしてこの通り、一冊の本としてようやくまとめることができました。こうした経緯があり、本書は今までのモクチン企画の「過去」をまとめたものであり、モクチン企画の次の展開を予感させる「未来」が同時につまったものになっています。
 本書を執筆するにあたり本当に多くの方々にお世話になりました。まずはモクチン企画関係者の一人一人に感謝します。役員である大島芳彦さん、土谷貞雄さん、天野美紀さん、林賢司さん、メンバーである中村健太郎さん、山川陸さん、そして最も献身的にプロジェクトを支えてくれた副代表の川P英嗣さん。「木賃アパート再生ワークショップ」時代からの学生メンバーにも感謝です! ここに書かれた内容は、数多くの協働者やクライアントの方たちがあってこその成果です。素晴らしい機会を与えてくださったパートナーズの方々やお施主様に感謝します。特に本書でも触れた、加藤豊さん、池田峰さん、茨田禎之さんには様々なかたちで支えていただきました。
 この活動は私が学部時代から始めたものです。そういう意味で恩師である小林博人先生に感謝の気持ちを送りたいと思います。また、支えてくださった他の数多くの先生方にも感謝いたします。
 イラストを担当してくれた荒牧悠さん、装丁を担当してくれた鈴木哲生さんとの共同作業がなければこの本は完成しませんでした。イラストとデザインという枠を超えて、本の企画や内容にまで踏み込んで協働してくれた二人には感謝してもしきれません。また、執筆段階から本書に対して助言しフィードバックをくださった編集者の和田隆介さんの名前もここに記録しておきます。
 いつもぎりぎりまで原稿を待ってくださり、本として素晴らしいかたちでまとめてくださった学芸出版社の井口夏実さん、最初に出版の話を持ってきてくれた山口祐加さんにも感謝の気持ちを捧げたいと思います。そして、私のこうした活動は尊敬する建築家である父の連健夫と、暖かく見守ってくれた母の存在なくしてありえません。ありがとう。また、土日を原稿執筆の時間にあてることを許してくれた妻の智香子にも感謝します。
 いま私は、再び無力感を感じています。当たり前のことですが、そんなに簡単に都市や社会は変わるわけではなく、瞬時に成果が出るわけでもありません。そういう意味で、自分自身の無力さを感じる毎日です。しかし、こうして思考を本にまとめてみたことで、強く信じられるものがあり、たくさんの仲間が周りにいることを改めて強く感じました。そういう意味で、学生時代に感じた出口のない無力感とは違い、希望が混在した無力感です。恥じることなく「次の時代の建築を追求したい」とここに宣言します。そのためにこの希望と無力感が混ざった複雑な気持ちを大切にして、これからも一歩ずつ前に進んでいきたいと思います。最後に、そうした思いに共感してくれるであろう目の前の読者と未来の読者の皆様に感謝の意を示し、筆を置きたいと思います。

2017年6月15日   連勇太朗