知覚を刺激するミュージアム
見て、触って、感じる博物館のつくりかた

おわりに


 本書は、博物館が包摂の空間であるという共通の理解のもとで、ここ数年間、ともに調査や研究を行ってきたメンバーが分担執筆を行ったものである。専門とする分野や所属機関はそれぞれに異なるが、ともに考えることを進めていくなかで共有したことは、よりわかりやすく、魅力的な博物館を実現するための「知覚」という作業概念であった。

 巻頭の「なぜ、知覚を刺激するミュージアムなのか?」にもあるように、「知覚」とは視覚や聴覚といった感覚だけを指すのではなく、そこから呼び起こされる記憶や知見、そして新たな想像を通して、対象を理解するという状態を指す。本書では、執筆者がそれぞれの分野や所属する機関における知覚の可能性やそれを実現するための方法を考えた。

 本書の編集の前段階にあたっては、メンバーによる研究会やワークショップを重ねるとともに、国立民族学博物館の機関研究「包摂と自律の人間学」の一環として行った国際シンポジウム「インクルーシブデザインとは何か―ケアと育みの環境を目指して」(2012年3月)等を通して、共生社会に向けた環境の創出という観点から、博物館の持つ可能性を考える機会を得た。本書はそれら一連の研究活動の現時点での成果という性格も有している。

 我々の今後の研究活動の方向は、これまでに培ってきたさまざまな経験、知見をもとにして、いよいよユニバーサル・ミュージアムを具体的に構想する段階に入っていくことになるであろう。それは、知の解体やミュージオロジーへの転換といった、頭でっかちな理論に頼るのではなく、あくまで現場に立ち、そこで誰が何を求め、それにどこまで博物館が応えられるのかを考えていくという姿勢である。本書がその出発点となることを執筆者一同確信している。

 なお、本書の編集・出版に関して学芸出版社の宮本裕美氏に多大なご協力をいただいたことに深く感謝の意を表したい。

2014年2月  野林厚志