シェアをデザインする
変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場

 シェアハウス、カーシェアリング、ウィキペディア等、場所・もの・情報をシェアするという考え方には、大量生産・大量消費時代の私有や消費とは明らかに異なる価値観が見て取れる。これらの行為のモチベーションが、コストを抑えることだけにある、と断言することはできない。都心のシェアハウスのなかには、周辺のワンルームと同程度かそれ以上の家賃が設定されているものもある。あるいはカーシェアリング。車を所有するというわずらわしさから解放され、使いたい時だけ使うという合理的な考え方だ。ウィキペディアはどうだろう。自分の情報を差し出すことが、結局は自分にもメリットになる、それを皆がわかっているからこそ、世界中で日々膨大なデータが無償で更新され続けるのではないか。これらの行為の背景には、より合理的に、軽やかに、楽しく、より良い未来を、そんな思いが見え隠れする。
 私たちは「シェア」を実現するために、さまざまな分野のプロが、しくみやプラットフォームを精緻に設計=デザインしているところに着目した。ただなんとなくうまくいっているのではない、時に試行錯誤を繰り返しながらも、計算し尽くされた一手が、多くの人に、負担なく、というより積極的に、シェアが生み出すメリットを享受することを実現しているのだ。「シェアをデザインする」ことによって生まれつつある新しい時代の片鱗を、この本を通して皆さんに紹介したいと思う。
 私は建築の設計の現場でシェアハウスに出会ってから、「シェア」に、住まいを超えた可能性を感じ、二〇一一年春、東京大学、首都大学東京、明治大学の建築を専門とする若手研究者・学生で「シェア研究会」を立ち上げた。場所の共有の実例収集や現地調査を続けながら、二〇一二年に連続シンポジウム「シェアの未来」を企画した。この本はその成果を近況を加えてまとめたものである。
 企画したメンバーは建築分野出身だが、これは建築の専門書ではない。新しい住まい方、働き方、ビジネス、クリエイション、地域づくり等、この一〇年程で変わってきたさまざまな状況を広く捉えることを目指している。だから、これからの社会を構想し、実践していく同世代はもちろん一〇代、二〇代の読者にも是非手に取ってもらいたい。最先端の実践例を知ることで、今何をしていようとも、これからどんな分野に進もうとも、きっと多くのヒントが得られるだろう。あるいは、行政や大きな組織で働く皆さんに読んでいただけたら、と思っている。本書の中にも登場するが、領域を超えた新しい試みには、往々にしてさまざまな規制や慣習が邪魔をする。この本が、その壁を越える助けになることができれば嬉しく思う。この新しい状況をできるだけたくさんの方に知ってもらうことも、この本の大きなミッションのひとつだと考えている。新しい時代を一緒につくり、盛り上げてくれるメンバーを一人でも増やしたい。編集しながら、そんな思いを強くした。
 私たちが感じた時代の空気を詰め込んだこの本から、シェアがつくる新しい社会、その未来を、皆さんに見つけてもらえたら幸いである。

二〇一三年一一月 成瀬友梨