シェアをデザインする
変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場

 「君はシェアハウスに住んだことがあるの?」と質問されることがある。実は、シェアハウスどころか、コワーキングスペースに入居したこともない。家族をもち、事務所がそれなりのサイズになったこともあるが、もし今一人だったとしても、私はシェアハウスに住んだかどうかはわからない。どちらかと言うと、シェアがつくり出すしくみとしての面白さを掘り下げ、社会の本質を考えることに関心があった。
 でも、この少し距離を置く感覚は大切だと思う。積極的に新しい状況に踏み込むことも素晴らしいが、必ずしも実践者ではない多くの普通の人がそれに共感できることも、社会が幸せに持続するためには大切だ。だからこそ私たちは、誰もが自然に楽しく関わって行けるシェアを「デザインする」ことを考え続けている。
 出版に先立ち、快く登壇を引き受け、毎回立ち見の出るほどの熱気溢れるシンポジウムを共につくり上げて下さったゲストの皆さんに、改めてお礼申し上げたい。調査や研究に協力してくれた研究会メンバー、この本をとりまとめていただいた学芸出版社の井口夏実さんにも、記して感謝したい。
 先日、国土交通省がシェアハウスに対する法的な位置づけを明確化する通知を出した。劣悪なものを取り締まるためではあろうが、一方で良識ある設計・運営をしているものに対しては、実状に合っていないという指摘も出始めている。シェアを取り巻く状況は刻一刻と変化している。こうした黎明期に、皆が主体的に関わりつづけることが、きっと自分たちの幸せな未来をつくるのだと信じている。

二〇一三年一一月 猪熊純