幸福な田舎のつくりかた
地域の誇りが人をつなぎ、小さな経済を動かす

人を呼び、経済をまわす田舎力


 筆者は食に関する取り組みをしている地域に伺う機会が多い。全国を巡るなかで、地域に活力があり、小さくても地域でまわる経済のしくみをつくり、地域内外の人と活発な交流を生み、地元産物の売り上げを上げているところには共通項がある。

@品揃えが多彩で、消費者がほしいものがすべて揃っている
A自動販売機や仕入品のお土産を置かず、オリジナル商品に主眼をおいている。仕入品であっても、素材や作り手や原料が明確なものを扱う
B子どもたちへの食育を積極的に行い、大人たちが誇りをもって伝えている
C消費者への食の教育を展開している。消費者に本物がなにかを伝えている
D消費者との対話の機会を多く設け、望まれる場や商品を妥協せずにつくりあげている
E女性の参加が多く、企画や加工や販売にも女性の視点やアイデアが多く取り入れられている
F人材教育に力を入れてお金と時間をかけて人を育てている。その結果、自らのものづくりと企画力を高めている
G企画から販売まで商品開発全体のデザインを考え、コンセプトが明確に見える。なかには専任でデザイナーを雇っているところもある
H旬や地域性が優先される
I環境に配慮した取り組みが行われている
Jリーダーが各地に出かけて新しい視点を吸収し、それまで地域になかった発想で大胆に取り組みを展開している
Kこれまでの枠組みを超えた連携やネットワークを築き、インターネットや通販などでしっかり発信している

 いずれにせよ、いいものをしっかり形成すれば、そこに人も集まり、若者もやってきて、地域に小さいながらも経済が巡り、雇用も生まれる。

 よく地方は高齢化である、経済が低下している、農業が衰退している、若者の働くところがない、などと言われる。しかし、それは現場をしっかり見ていない人の発言である。出てくる数値も、これまでの人口増、経済右肩上がりが前提での数値となっている。

 むしろ、それらの概念にとらわれず、自らしっかり取り組んできたところは、若者もいるし、高齢者の働く場や生きがいも生まれ、小さくても経済が動いている。

 もう一つ共通しているのは、いずこも一度は、どん底に落ちていたところである。人が来なくなった観光地、人が集まらなくなった商店街、高齢化で野菜を売るルートが途絶えてしまった農村、林業が衰退した山間地、などである。

 どん底を経験し、これまでの流通や売り方をまったく変えた。自ら出かけて新しい売り場を開拓する。高齢者が生きがいを持てる場をつくる。それまで価値がない、売れないと思われていたものにまったく別の視点で価値づけをし新しい商品を生みだす。他人頼り、企業頼りではなく、自らの行動で、地域の個性を見出し、足元にあるものを発信してきたところだ。

 これまでは、人口が増え、働く人も多く、売る場がたくさんあった。だから、つくればたいてい売れた。イベントを打てば人が集まった。

 しかし、今では人口が減り始め、団塊世代が定年退職し、高齢化率が高まっている。リーマンショック以降、急速に消費の節約が始まった。実際、スーパーや量販店の売り上げは落ちている。

 これまでのように、大量につくり都市部に送るという流通構造や、大人数で名所旧跡を巡り、規格化された土産品を買うという観光からは人が離れている。むしろ、小さくても自然景観に配慮したり、手づくりでもしっかりした物を販売したり、足元を見直して一から始めたところが人気を集めている。

 既存の観光地より、これまで何もないと思われてきた山村の風景が美しい宿や農家レストランに人がやってくる。

 商店街も、道路を拡幅したり量販店が郊外にできてしまったところは客を奪われ衰退してしまっている。安心して歩けて、身近に買い物ができ、日常の食品や必要なものが揃うところ、独自の街並みを残すところに人が集まっている。

 今、ものづくり、観光、流通などの現場で、大きな価値の変動期にある。大量生産・大量流通するところと、こだわりの商品を扱うところと、二極化が進んでいる。

 地域でも、これまでの商業や農業、観光という概念が急変していて、新しい価値観が求められている。本書に登場したところは、従来のやり方を脱し、いずれも地域の人が地域の豊かさを自らの手で見つけ、さまざまな資源や人をつなぎ、自分たちの価値観を発信し、共感を呼んでいる地域である。それは、ローカルの徹底こそが、じつはグローバルに通用するものだと、改めて知らしめてくれる。