まちへのラブレター
参加のデザインをめぐる往復書簡

とりあえず一区切り ── あとがきにかえて    山崎亮

 「往復書簡」という形式は興味深いものだ。じっくり考えながら対話を進めるという意味で「対談」とは違った趣がある。「対談」と「往復書簡」。たまたま同じ時期に建築家との対話が二冊の書籍にまとまった。一冊は藤村龍至さんとの「対談」をまとめた『コミュニケーションのアーキテクチャを設計する』(彰国社)であり、もう一冊が乾久美子さんとの「往復書簡」をまとめた本書である。

 「対談」は、相手がしゃべったことを聞き、こちらが思うところを述べ、それについてまた相手が何かをしゃべる。これが細かく入れ替わりながら対話が続く。即興的なやりとりだからこそ面白い方向に話が展開することがあるものの、反射的に出てくる話題は別の場所で話をしたことと似た内容になることが多い。一方、「往復書簡」はまとまった話題が相手から提供され、それをじっくり読み込んでからまとまった返事を書く。こちらのまとまった返事のなかから相手が興味を持つ話題を選び取り、また一定量の返事が届く。本書の場合、それが二日後に届くこともあれば二ヶ月後に届くこともあった。平均すると二週間ごとにやりとりしたことになるだろうか。いずれにしても、対談に比べるとのんびりとしたやりとりである。だからこそ、じっくり話題を選び、考え、返信することができる。相手の話題に合わせて返答を考えるので、問いかけによっては自分ひとりでは到底生み出せなかったような話を書き綴ることができる。最近は、油断するとどこで話をしても「どこかで話したこと」を繰り返してしまいがちなのだが、本書には驚くほど他で語らない話題が登場している。これは往復書簡という形式がなす業だと言えよう。
 独自の話題が生まれたもうひとつの理由は、ほかでもない乾さんの存在だろう。振り返れば、乾さんこそが本書における名ファシリテーターであった。他で語ったことのないような話題が飛び出したのは、乾さんの問いかけ方が毎回絶妙だったからである。本書を一読いただければ分かるとおり、結局のところ私は乾さんが提示してくれた適切な話題にその都度なんとか応対してきただけなのである。

 いつかまた、往復書簡ができたらいいなと思う。次回は私がファシリテーター役を果たさねばなるまい。今回は「参加のデザイン」について乾さんが問い、私が応じるという往復書簡だった。次回は「建築のデザイン」について私が問い、乾さんがそれに応じるという往復書簡にしたい。また、本書で語ろうと思って語り切れなかったこともある。「○○については後ほど」と書いておきながら、結局語らなかったトピックも多い。それらもまた、次回の往復書簡にて語りたい。
 とはいえ、続編を読みたいというニーズがなければ、乾さんと個人的にメールでやりとりするにとどめるべきだろう。コミュニティデザイナーたるもの、読者の意見を聞きながら続編を構想すべきである。本書読了後、続きを読んでみたいと思う方がいれば、ツイッター、フェイスブック、ブログなどで「続編が読みたい!」「こんなテーマで話し合って欲しい!」とつぶやいていただきたい。その数が多ければ出版社も続編の刊行に踏み切るはずだ。続編のテーマもその中から見つけたい。

 だから、この「あとがき」で本書のまとめを書くつもりはない。感動的な言葉で締めくくるつもりもない。ページ数に限りがあるからいったんこのあたりで区切りをつけるものの、乾さんとのやりとりはこの先も続く。延岡でプロジェクトをご一緒させてもらっている以上、まだまだ語り合いたいことがたくさんある。いつの日か、そのやりとりの一部をまたみなさんと共有できることを願っている。
 乾さんとの出会いをつくってくれた延岡駅周辺整備プロジェクトの関係各位と、往復書簡という楽しいやりとりを提案してくれた学芸出版社の井口夏実さんに感謝したい。そして、さまざまな話題で「参加のデザイン」に関する重要なキーワードを引き出してくれた乾久美子さんに謝意を表したい。

 今回はこのあたりで一区切りつけることにしよう。今日はこれから福山市でワークショップ。明日は大分市に移動して住民のヒアリングである。

二〇一二年七月二十三日