港町の近代


おわりに

 本書で扱った、四つの港町(門司、小樽、横浜、函館)は、その一つ一つに思いがけないほどの個性があり、同時に近代の歴史の新たなページに立ち向かう都市の姿が潜んでいた。調査を終え、研究を深めていく段階でその意識がさらに膨らんだ。日本の近代都市は、近世以前に培った歴史的空間を破壊し、決別することで成立してきたかに思われがちであった。しかし、これらの近代港町は、場所のもつ履歴や人々が営んできた歴史と深くかかわりながら、新たな都市空間を誕生させた。また今回の試みは、近代の歴史を反芻するだけのために試みたわけではない。現代という歴史的港湾をもつ都市空間が置かれている状況から、将来に向けてのメッセージが近代化の過程にあったからだ。
 1990年代の初めころ、ほぼ同じ時期に「銀座」と「日本の港町」の研究を本格的に始動した。はじめはこれら二つの関係性などまったく意識にはなく、それぞれが別々の研究として成果をあげていった。銀座の研究では、ほとんど研究されてこなかった江戸時代の銀座に着目し、銀座煉瓦街の建設、その後の発展がいかに江戸町人地の構造を上手に組み入れたものであるのかを明らかにした。近代初頭の明治の都市計画が江戸の都市空間をしっかりと受け止めた上で、新たな空間を創出したのである。一方、日本の港町の研究では、近世に発展、成熟した港町に着目した。そこでは、中世を受け継ぎながら、海に向けられた豊かな空間をつくりだした都市の形成と構造の仕組みを明らかにした。
 このような銀座と近世港町の研究の成果をより深めるために、近代港町に注目することにした。そして、この研究が銀座で導きだされた結果と重なり合うことに軽い衝撃を受け、改めて明治期の都市形成のあり方の重要性を知ることになる。
 本著の母体となった調査と研究報告書は以下の通りである。2004年春と、その夏から秋にかけて、レトロ・ブームに沸き立つ四つの近代港町の調査に旅立った。2004年7月1日、日本の港町研究会を発足させたメンバー5人(岡本哲志、石渡雄士、小谷慎二郎、大森彩子、八木邦果)は、先ず函館と小樽を訪れた。2004年8月3〜10日の行程である。北海道の調査を終えた後、8月29日と9月21日の2日間は横浜の調査を行った。これらは、法政大学大学院エコ地域デザイン研究所における研究の一環として試みられた。調査を実施し、報告書を作成するにあたり、ミツカン水の文化センターの助成による2001年9月9〜10日に実施した門司の現地調査の成果も、2004年4月2〜3日に法政大学大学院エコ地域デザイン研究所において再調査を行い、新たな視点を入れ、さらなる分析を加えることで報告書の柱の一つとした。

 本著の初出となる報告書『日本の近代港町―その基層と空間形成原理の発見』(法政大学大学院エコ地域デザイン研究所、日本の港町研究会編)では、全体の枠組み、考え方を岡本哲志が提示し、執筆にあたっては函館を岡本・八木邦果、横浜を石渡雄士・大森彩子、小樽を小谷慎二郎・大森、門司を岡本がそれぞれ担当した。その後全体の企画・構成、及び各章の最終的な文章校正は岡本が行い、手を加えた。報告書の図版作成にあたっては、函館を小谷・八木、横浜を石渡・大森、小樽を小谷・大森が各々担当した。門司に関しては2001年の調査に協力していただいた難波匡甫氏が作成した図面をもとに大森が手を加え完成させた。報告書の取りまとめ作業は石渡と大森が担当している。
 本書は、その後岡本が初出の報告書を精査し、大幅な文章の組み替え、加筆・修正を試み、新たに文章を練り、まとめ直したものである。しかし、本書においても報告書を執筆担当した4氏の思い入れた内容が充分に活かされている。
 本書の出版にあたっては、多くの方の助言や協力があった。まず、日本の近代港町の調査・研究に理解と、助言をいただいた法政大学大学院エコ地域デザイン研究所所長の陣内秀信氏(法政大学教授)には深く感謝したい。研究する上で難しいテーマを暖かく見守り続けてもいただいた。また、日本の港町研究会はこの法政大学大学院エコ地域デザイン研究所の歴史セクションに属するものであり、歴史プロジェクトのリーダーである法政大学准教授の高村雅彦氏にはこの研究体制においてご配慮をいただき、今回の研究を進める上で大いに助けとなった。図面作成にあたっては法政大学陣内研究室修士過程に在籍する榊俊文、根岸博之、木下まりこの各君が協力してくれた。ここに礼を述べたい。
 調査にあたっては、地元の方々の協力や助言が研究を進めるにあたり大いに助けとなった。一人一人お名前を挙げることができないが、ここに感謝の気持ちを込めてお礼申し上げる。
 最後になったが、本著の出版に労を取っていただいた学芸出版社の前田裕資氏にはなかなか出版になりにくい近代港町のテーマを引き受けていただけた。そして、前田氏とともに編集を手掛けていただいた中木保代氏に感謝したい。両氏は『江戸東京の路地』(学芸出版社、2006年)からのおつき合いで、情熱を持った丁寧な編集には感謝いたすところである。

岡本 哲志
2008年3月2日