自治と参加・協働


あとがき

 都市をより安全で住みよいものとするにはどのような地域づくり、まちづくりの取り組みが必要なのだろうか。そもそもこうした役割はいかなる主体が担うものなのだろうか。
  本書は、現代の都市と自治体が大きな環境変動の中に置かれていることを前提に、これからの地域づくり、まちづくりにローカル・ガバナンスの再構築が不可欠であることを、多様な視点からさまざまな手がかりをもとに考察を試みたものである。

  では、その再構築に必須の条件とは何だろうか。本書は、全体として、参加と協働を通じた自治の拡充をその最も重要な条件と位置づけている。言うまでもなく、「参加」の重要性は、教育・文化や福祉といった社会的な分野であれ、公共施設や道路の整備といったハードの分野であれ、これまでもさまざまな分野で指摘され、多くの自治体の現場で実践されてきた。自治体の将来ビジョンやルールづくりという面に注目するだけでも、近年では、基本構想・基本計画の策定過程にとどまらず、条例素案のとりまとめへの参画も試みられている。こうした広い意味でのまちづくりの経験がもつ意味はけっして小さくない。

  しかしながら、都市のさらなる変化とそこに生きる住民の暮らしを展望するとき、参加の機会や場、その仕組みを再検討したうえでこれをさらに充実させること、参加の質をより高いものにすること、このことが決定的に重要ではないだろうか。住民には、これまで以上に地域における自主的・自発的な共同の活動や公共的な事柄への関心の持続、また政策過程への参加・参画が求められよう。地方政府においては、より質の高い公共サービスの実現に際して、住民の参加・参画を媒介にした民意吸収に努めること、必要に応じて彼らとの適切な協働を検討することが不可欠となる。両者の取り組みがあいまって初めて都市が自治と政治の単位となるといってよい。

  もとより、すべての自治体が依拠できるようなモデルがあるわけではない。どのような理念を基礎とするのか。いかなる仕組みやルールを整えるのか。すべての自治体にとって、ローカル・ガバナンスの再検討と新しい「住民参加型自治」の実践が求められている。

羽貝正美