自治と参加・協働


まえがき

 現代の都市、自らが働き、暮らす都市の様相を、人はどのように捉えているのだろうか。また望ましい都市、実現すべき都市像や居住環境をいかにイメージしているのだろうか。さらに、そうした都市の現状や未来像に自らをどう関係づけているのだろうか。
  改めて指摘するまでもなく、都市は極めて多様かつ複雑な顔をもつ1つの社会的実体にほかならない。高密度に人が暮らし、高い利便性と多様な魅力を備え、多くの人々が公共、民間をとわずさまざまなサービスを享受しながら自らの生き方を追求し、日々活動に従事している。一般にはこうしたイメージが先行しているのかもしれない。反面、現状がまさにそうであればこそ、安全・安心面での不安をはじめ、少子高齢化や地域社会の変容、人々の社会関係の希薄化が論じられ、既存の公共的な合意形成のあり方が問題にされる。都市が危うさや制御の難しさを常に抱えているということを認めざるをえない。

  たしかに課題の本質や深刻さは都市規模やその成り立ちの経緯によって異なろう。1つの都市であっても、地域ごとに直面する課題が異なるということもある。しかし、大きく捉えれば、汎都市化の過程にあるわが国において、すべての都市が社会的な側面、フィジカルな側面、その両面において固有の課題を抱えていると見るべきであろう。
  ではこうした課題を漸次克服し、望ましい地域づくりやまちづくりを進めていくためには、何をどう改めていく必要があるのだろうか。現状ではどのような視点が欠落しているのだろうか。なるほど、都市は、時としてボーダーのない社会的実態そのものとして捉えられる。しかし、改めて想起すべきことは、広域自治体あるいは中央政府との連携・協力を前提にしながらも、それが何よりも住民と地方政府からなる「基礎自治体」という公的な枠組みとして、つまり自治と政治の基本単位として存立しているという事実である。

  問題の核心は、この単位・枠組みが、住民の自主的・自治的活動を基盤としたうえで、政治・行政への彼らの参加・参画と協働を促しながら、地方政府を主たる責任主体とする政策過程の全体を適切かつ民主的に作動させ得ているか、公共サービスやその管理のあり方など、求められる自治体政策を的確に実現しているかという点にある。言い換えれば、ローカル・ガバナンスは適切に機能しているのか、本書全体を貫く問題意識はこの点にある。
  「住民参加」という表現を用いるならば、現代の都市社会が、参加の範囲と質を根本から見直すことを要請している、と言ってよい。むろん今日の地域づくり・まちづくりは、事業者(法人市民)、NPO、在勤・在学者、さらに多様な分野の専門家など、住民とともに一般に「市民」として捉えられる存在を抜きにしては考えられない。しかし、有権者・納税者、自治体の最終意思決定権者である住民自身が、広く市民と連携しながらも、課題の当事者として地域や自治体全体が抱える公共的課題を理解し、その解決に要する意思決定に実質的に関わることが何よりも求められているのではないだろうか。こうした視点に立てば、ローカル・ガバナンスは新たな「住民参加型自治」を意味するものと捉えることができる。

  本書に収められた10編の論考は、こうした視点から地域づくり、まちづくりに注目し、ローカル・ガバナンスのあり方を考察したものである。問題の所在を提示する序に続き、コミュニティ政策の転換を論じた第1章、近隣政府を手がかりに身近な自治の意義とその課題を論じた第2章、自治体財政という視点から新たな社会統治システムを論じた第3章、そして第4章が住民共同の1つとしての自立型マンション管理組合を考察している。これらを自治と参加・協働の理論編として、続く5章以下には具体的な現場を手がかりに考察した論考が収められている。具体的には、NPO活動と行政の変容を論じた第5章、自治の観点から都市計画審議会の現状と課題を論じた第6章、協議・調整型まちづくり条例の意義と可能性を考察した第7章、さらに第8章がまちづくり活動と街づくり条例を住民自治の観点から考察している。
  主題はいずれも今日の都市と自治体が直面する諸課題に密接に関わっている。住民、自治体関係者はもちろん、世代を問わず広く地域づくり・まちづくりとガバナンスの現在・未来に関心を寄せる多くの読者に、問題提起の書として受け止めていただけることを切望している。  

羽貝正美
2007年7月