土木と景観


あとがき

  本書は、2006年3月、筆者らが名古屋にて開催したシンポジウム「景観法時代におけるインフラストラクチャーのデザインとマネジメント」を契機にできあがったものである。本シンポジウムでは、土木分野における景観工学の先駆者、中村良夫氏(東京工業大学名誉教授)を招き、「景観法時代の地域マネジメント―総合化の戦略―」という講演を頂いた後、執筆者五人が自らの専門分野から独自の切り口を示すという試みがなされた。
  講演内で提起された、これからの土木につきつけられた課題に対し、都市や地域において求められるインフラストラクチャーの姿、ひいては地域社会、都市コミュニティにおける総合的な「かたち」の議論がなされるべきである、と痛感した筆者らが「景観」という共通命題を持つことで、デザイン的思考、マネジメント的思考の粋を寄せたのが本書である。
  土木計画という分野に属してはいるものの、筆者らの専門が多様であることは本書を読んでもらえればご理解頂けるだろう。それぞれの専門性の名のもとに、地域にとって景観の果たす役割、地域にとって土木が果たす役割、そして土木にとって景観が果たす役割は何なのか、筆者らはインフラストラクチャーの「デザイン」と「マネジメント」を念頭に、多くの議論を費やした。本書は、そのような時間が「協働のかたち」となって結実したものといえる。本書の成果が、人びとの豊かな暮らしを包む美しい風景づくりへ、少しでも貢献できれば望外の幸せである。
  最後に、シンポジウムでご講演を頂いた中村良夫氏、ならびに本書の企画段階から完成に至るまで編集の労をおとりいただいた学芸出版社の井口夏実氏に、心から感謝の意を表したい。

2007年2月
執筆者一同