創造都市への展望


あとがき

 本書は、総合研究開発機構(NIRA)の研究プロジェクトとして2005年10月から1年間をかけて実施された「文化都市政策で創る都市の未来―都市・地域における創造性向上のためのビジョン」の成果として編集されたものである。この研究プロジェクトの醍醐味は、何と言っても、学者と日本の代表的な都市の行政担当者、さらには企業経営者という多様なメンバーからなる研究会を組織し、議論を重ねることができたという点にあるだろう。それは、専門や立場の違うメンバーが一堂に会することにより、相互に刺激を受け、学びあう場でもあった。この異色のNIRA「文化都市政策で創る都市の未来」研究会が目指したのは、文化政策主導による21世紀型の都市政策を「文化都市政策」と位置づけ、国内外の動向を踏まえつつ、多角的な視点から創造的な都市空間の未来に向けた政策ビジョンを提示することであった。その際に議論の拠り所としたのが、目下、日本でも関心を集めている「創造都市」という考え方である。

  さて、1974年にNIRAが設立されて以来、その30年をこえるあゆみのなかで「都市」と「文化」は研究のおおきな柱のひとつとなってきた。70年代には「行政の文化化」をスローガンとする都市文化行政の旗振り役をつとめ、80年代には「地方の時代」、「文化の時代」の掛け声のもとで地域開発や文化首都論の推進母体として機能し、90年代のバブル経済崩壊後はたんなる芸術文化の振興ではなく都市そのものの文化化、すなわち都市の総合的文化政策を構想する場となっていった。そして21世紀にはいると、市民活動や企業活動との連携による文化行政、つまり協働による「文化都市政策」の研究・開発に軸足をうつし、都市連携や創造性をキーワードに現状分析や未来展望にエネルギーを傾注してきた。本書の背景には、こうした30年に及ぶ「都市」と「文化」をめぐる地道な研究の積み重ねが存在している。特に、都市や地域の創造性・創造力を高め、魅力ある将来ビジョンを構想するにあたっては、本研究プロジェクトの直接の生みの親とでもいうべき先行研究の成果、端信行・中牧弘允・NIRA編『都市空間を創造する─越境時代の文化都市論』(日本経済評論社、2006年)もあわせて参考にしていただければ幸いである。

  これまでのNIRAの一連の研究活動を通じて生み出されたのは出版物だけではない。国家の時代から「都市の時代」となった現代、都市間の連携やネットワーク化がいっそう意義を増してきている。折しも2006年5月に、企業メセナ協議会等の協力を得て開催した「日仏都市会議2006:都市の文化対話」において、「日仏都市間文化対話委員会」(仮称)が提案されたことを契機に、文化都市政策を推進するための都市自治体間のネットワーク構築への機運が高まっている。今後は、日仏を超えたグローバルな広がりが期待できそうである。

 末筆ながら、研究会の座長として、また本書の編者として重責を担ってくださった佐々木雅幸教授をはじめ、研究会委員および協力者の方々、そして本書の刊行に当たって丹念な作業の労を惜しまなかった学芸出版社の前田裕資氏と知念靖広氏に、心より感謝を申し上げたい。またNIRA事務局の担当者として特に飯笹佐代子主任研究員の労を多としたい。
  本書におさめられた各論考が「都市」と「文化」をめぐる政策論にそれぞれ一石を投じることを期待してやまない。
 2007年2月  

総合研究開発機構理事
国立民族学博物館教授
中牧弘允