創造都市への展望


書 評
『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2007.8
 本書は、「創造都市」に関するわが国の取り組みを「理論とガバナンス」そして「政策実践の現場」の両面から、その現在を浮き彫りにしようとするものである。
 近年、世界中で創造都市論が注目されている。わが国における同論の第一人者である編者・佐々木雅幸氏は、創造都市を、バルセロナを例に4つの理由、すなわち@芸術創造のエネルギー、A創造産業群の発展、B市民の自治意識の高さ、C人類普遍の価値ある行動を提起する力量に富んだ都市、により定義づけ、都市の文化と“創造性”が都市政策の中心に移ってきたと述べる。
 本書でも、その系譜について述べられているが、この都市概念は、1980年代、製造業の衰退により都市の産業の空洞化、人口減少、治安の悪化等が深刻な都市問題に直面した欧州の“地方都市の危機”を背景として、その再生のために提唱された都市政策論である。1995年、Ch.ランドリーとF.ビアンキーニが取りまとめた小冊子『創造都市』で紹介され、続く2000年にはランドリーによる『創造都市―都市イノベーターのための道具箱』が発表されている。
 本書では、まず、第1部でこうした「創造都市」の概念を、加茂利男氏が同じグローバル化によって生み出され、対立する都市概念である「世界都市」との対比による都市概念の変遷をもって論じる。続く章において、佐々木氏が創造都市の概念を定義した上で、その後の各章において語られるのは、「コンパクトシティ」「文化政策と産業政策の統合」「民間と公共」そして「多文化共生」、最後に「メルクマール(指標化)」が論じられる。
 第2部では、北は札幌から南は福岡まで、全国で取り組まれている創造都市への現場の実践へと引き継がれる。
 本書から導き出されるのは、まず、都市の “創造性”に対する多様な視点である。副題に示された「文化政策とまちづくり」は、単に文化を「芸術文化」として捉えているものではない。創造都市とは「文化都市」という短絡的な都市論ではなく、従来の開発型の都市運営に対するアンチテーゼの諸相を包含する都市概念であることがわかる。
 その一方、この都市概念が(少なくともわが国においては)未だ過渡期にあることがわかる。創造都市の多様な視点の中に解決の方向が漠然と見えながらも、20世紀の“負の遺産”が依然として対立要素として残されていることが示されている。そのため、終章の提言も、都市政策に係る行政運営のあり方に留まっている。
 欧州発のこの都市概念が、今後、わが国においてどこに向かうのか。今後の方向性と都市の諸問題の解決の糸口を探すための最新の書であることは間違いないだろう。
(大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会/杉浦幹男)

『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2007.8
 世界各国多くの都市があり、その都市における政策は様々であるが、私たち人間が生きていくうえで、魅力ある都市への変貌は何時の時代も求められている。
 本書は「創造都市」というキーワードを基に、創造都市の概念や、創造都市と呼ばれる都市の特徴や紹介、また創造都市に求められる政策や手法等が10数名の執筆者により構成されている。
 第1部では、創造都市の定義やイタリアのボローニャを始めとする諸外国における創造都市への取り組み、創造都市へとなるべく政策、都市の創造性の指標化など、創造都市とはいかなる都市なのか、様々な角度から述べられている。
 どの執筆者も創造都市を語る場合に文化政策の重要性を述べていて、そう言えば、1000年の長きにわたり繁栄してきたかの古代ローマ帝国でも多くの皇帝が、国民生活の向上に寄与するために様々な文化施設を建設していたこともうなづける。もちろん文化政策は、ハード面だけでなくソフト面の充実を図ることももちろん重要ではあるが。
 第2部ではわが国において創造都市を目指しているその都市(札幌、盛岡、仙台、北九州等)の取り組みを紹介している。各都市のプロフィールも表に纏めてあり、その都市の基礎データや政策等が一目で分かるようになっていて、各都市がそれぞれの戦略の基、政策を実現し、創造都市への転換を目指しているのかが、十分読み取れる内容となっている。
 また、都市の紹介だけでなく、農村(冨田ファーム)を紹介したコラム欄は非常に新鮮な気分が得られる。
 読後、「創造都市」の実現は現在の首相が提言している「美しい日本」に向けての一歩だと思った。

(米盛司郎)

『ESP』((社)経済企画協会) 2007.6
 都市の魅力とは、何であろうか。経済の高度成長は、機械化による大量生産、大量消費を推し進め、自治体は、国の後押しのもと公共事業を積極的に行い、都市を発展させてきた。しかしながら、グローバル化の大きな流れ、バブル崩壊による長期の不況は多くの都市に産業の空洞化をもたらしている。都市間競争が激化していく中、自治体にとって地域の再生・活性化が急務となっている。そのような中で、注目を集めているのが創造都市という新しい都市の概念である。
 本書は、理論編と実践編の2部から構成されており、創造都市論の最先端を走る研究者と都市政策の現場で活躍する自治体担当者がそれぞれ執筆を担当している。
 「第T部 創造都市をめぐる理論とガバナンス」では、ニューヨークや東京といった巨大都市が標榜した世界都市と対比しつつ、創造都市が台頭してきた系譜を辿る。創造都市論に大きなインパクトを与え、今なお国際的なリーダーとして牽引しているランドリー、フロリダの理論をわかりやすく解説し、先駆的な都市であるイタリアのボローニャの事例から創造都市の条件をみている。そして、コンパクトシティと創造性との関連や、インセンティブという切り口で、創造的産業を考察し、文化政策と産業政策の統合を図るという視点は、大変興味深い。また民間が担う公共についての提言や多民族、多文化化へ向かう日本社会の創造の可能性についても言及し、創造への指標化にも試みている。
 「第U部 政策実践の現場から」では、日本における創造都市の先駆的存在でもある横浜市をはじめとして、札幌市、盛岡市、仙台市、北九州市、福岡市での取り組みを、具体的事例を基に報告する。気候風土も異なれば、根付いている文化、市民気質も違う日本有数の都市での事例は、ケーススタディとして十分満足できるボリュームである。都市の魅力を再発見するとともに、都市政策の潮流を感じることができる。
 本書は、総合研究開発機構(NIRA)の「文化都市政策で創る都市の未来」研究会の成果として編集されている。学者、行政担当者などによって構成された同研究会は、「理論と政策の狭間で厳しい議論を呼び、また、あるときは豊穣な余韻を含んで展開された」とはしがきで述べられている。それを踏まえた上で、理論編、実践編を読み比べてみるのも面白いかもしれない。「国家」から「都市」へとパラダイム変換が起きている中、都市の魅力を引き出そうと腐心している行政、市民にとって、創造都市へのガイドラインとして、大いに役立つのではないか。
(大島礼)

『地方行政』(時事通信社) 2007.4.23
 グローバル化と地方分権化の進展、さらにはバブル崩壊後の長引く閉塞感から脱しつつあるとはいえ、依然として続く財政難等を背景に、持続可能な地域再生に向けて、従来の開発型とは異なる発想や新たな政策が求められている。その際、人を惹き付ける魅力のある都市・地域にするために、自然環境や文化、市民の活力や能力等、地域に固有の資源を戦略的かつ有効に活用しながら、いかに「創造性(創造力)を高めていくのかがいっそう重要な課題となっている。そうした中で日本においても近年、にわかに脚光を浴びるようになったのが、イギリスの都市計画家チャールズ・ランドリーが最初に提唱した「創造都市(クリエイティブ・シティ)という考え方である。大量生産時代から知識経済時代へ移行する中、規模は小さくとも独自の文化的創造力で都市の繁栄を享受でき得る新たな都市ヴィジョンとして、今や「創造都市」は日本のみならず韓国や中国においても政策上のキーワードとなりつつある。

理論と政策的可能性をダイナミックに
 では、「創造都市」とはいかなる概念であり、どのように有効なのか。その理論的魅力と政策的可能性の双方を、ダイナミックかつ具体的に解き明かそうとしているのが本書である。そして本書の醍醐味の一つは、理論面での最新動向を踏まえた議論とともに、都市政策や文化政策の現場で日々奮闘する行政担当者、あるいは経験者の目から語られる事例報告が充実していることであろう。
 編者は創造都市論の第一人者、佐々木雅幸・大阪市立大学大学院創造都市研究科教授。各論考は、総合研究開発機構(NIRA)が主宰した「文化都市政策で創る都市の未来」研究会での議論がベースとなっている。学者と政策担当者が一堂に会した同研究会は「理論と政策の狭間で厳しい議論を呼び、また、あるときは豊穣な余韻を含んで展開された」刺激に満ちた場であったと「はしがき」にある。そうしたある種の緊張感を行間に感じ取りながら読み進めるのも一興かもしれない。
 内容は二部構成。前半の第T部〈創造都市をめぐる理論とガバナンス〉ではまず、都市論の最前線を照射し、創造都市論の台頭と展開について世界都市論やコンパクトシティ論と比較しつつ論じされる。続いて創造的産業の振興や新しい公共を担う財政のあり方、多文化の共生などの課題に着目し、創造都市ビジョンを支える仕組みや政策的方向性、さらには都市の創造性を測るための前提条件や方法論について考察される。
 後半の第U部〈政策実践の現場から〉には、国内六都市の事例報告が収められている。「sapporo ideas city」を掲げ、豊かな自然を活かした創造都市を模索する札幌市、「暮らし文化」そのものを地域ブランドとするまちづくりに取り組む盛岡市、「楽都」「劇都」「ART仙台」として多様な文化政策の実践を通じた文化創造を図る仙台市、「クリエイティブシティ・ヨコハマ」のさらなる推進に努める横浜市、工業都市から「ものづくりのまち」を牽引する文化創造への転換を図る北九州市、そして「都市文化政策」のもとに「アート」の活用によるまちづくりを推進する福岡市。これら地理的条件や歴史的背景、産業構造も異なる諸都市が、その固有性を活かしながら独自の路線を模索するプロセスは、創造的な都市政策を考える上で多くの示唆に満ちている。
 行政、そして市民が地域再生に向けて真摯に立ち向かい、変革への道筋を問うための「理論と実践」のハンドブックとして、本書は大いに活用できそうだ。

『全国商工新聞』 2007.5.21
 まちづくり3法が改正され、「コンパクトシティへの挑戦」が話題にもなっていますが、本書は「創造都市」をキーワードに都市のあり方を探ろうとする研究者、政策担当者らの共同研究の成果です。
 創造都市とは、ニューヨークやロンドン、東京などの世界都市に対し、「規模は小さくてもすぐれた産業や文化・技術の創造力をもち、国際的なネットワークを持つ多くの都市をより普遍性のある現在都市として概念化した」ものです。都市政策のなかに「文化と創造性」という視点が据えられているところに特徴があります。
 それはなぜか。佐々木氏は「20世紀が大量生産・大量消費に基づく工業化の世紀であり、大企業中心の大きな政府の時代であったとすると21世紀はそのような画一化した大量生産システムよりはむしろ、創造性あふれる感性をもち先端的なアイデアを生み出す人々が主体になって、知識と情報をベースにした経済社会に移ろうとしている──それゆえ当然、巨大企業と大規模工場とが都市の中心に座るのではなく、むしろ、創造的な活動を行う市民、あるいは小さくても創造的な事業をおこなう企業が集まって都市が発展する」と述べます。
 T部では、創造都市政策の理論、U部では、「政策実践の現場」からとして、北の大地に根ざした芸術文化の薫りある創造都市をめざす札幌、「暮らし文化のまち」づくりをすすめる盛岡、仙台、横浜など6都市のとりくみが紹介されています。
 今日のまちづくりを再び画一的なハコモノづくりに終わらせてはなりません。
 「文化と産業が共鳴するまち」づくりへぜひ参考にしていただきたい労作です。