ミュンヘンに住んでいると日本の人に言うと、たいてい「ビールがおいしくていいですね」という言葉が返ってきます。左党でなくとも、ドイツと言えばビール、ビールと言えばミュンヘンというイメージを抱いている人が多いのでしょう。
ドイツの中でも、ミュンヘンのあるドイツ南部バイエルン州は、ドイツのビール醸造所の半分以上、欧州連合(EU)全体で見ても40%もの醸造所が集中する場所です。また、バイエルン州はビールの原料となる大麦やホップの一大生産地でもあります。ミュンヘンは、世界一のビールの祭典オクトーバーフェストの開催地としてあまりにも有名な“ビールの都”。ドイツ、特にミュンヘンを含むバイエルン州がビールの本場と言われる所以は、こんなところにあります。
皆さんは、そんな本場のドイツビールを飲んだことがおありでしょうか。ドイツに行って飲んだという方は、その新鮮で濃厚な味わいに感激されたことでしょう。私もそうでした。また、日本に輸入されたものを飲んだことのある方でも、はるばる長い時間をかけて運ばれて来たのに、日本で造られたビールよりもおいしいと思われたかもしれません。なぜ、ドイツのビールってそんなにおいしいのでしょうか。
ミュンヘン市内では、オクトーバーフェストで飲める市内の醸造所の銘柄だけでなく、周辺の町や村の醸造所から直送された様々な銘柄のビールを飲むことができます。いずれのビールも、州内で収穫された大麦とホップ、そしてビール酵母だけを原料に、アルプス山脈からの伏流水を使って醸造されたもの。製品を海外に輸出している醸造所もありますが、小さくて良質な醸造所の銘柄であればあるほど、そのほとんどはミュンヘン市内とその周辺だけで消費されます。
地元で造って地元で飲む─。ミュンヘンで杯を重ねるうちに、この「地産地消」の精神こそ、ドイツビールのおいしさの原点ではないかと思うようになりました。そこで、ドイツビールをおいしくする地産地消がどのように成り立っているかについて、私なりの角度から論じてみることにしました。
第1章ではまず、「ドイツビールは何故おいしいのか」という問いを下敷きに、地元で育ったものを使って、ごまかしのない正しい方法で造ることの大切さを考えてみます。ドイツでの一般的なビールの造られ方やビールに関する税制を見ると、なぜドイツのビールは安くておいしいか、なぜ日本のビールはそうではないかがわかります。
おいしいビール造りには、良質な原料が欠かせません。良質な原料を生み出すのは、何と言ってもきれいな自然環境です。第2章では、ビールのおいしさにつながっているドイツの自然環境保護のための様々な方策を見ていきます。
第3章では、ミュンヘンとその周辺の醸造所をご紹介しながら、地産地消のビールはおいしいだけでなく、地元の人たちの誇りであり、地域の活性化にも一役買っている様子をお伝えします。
そして最後に、日本でもおいしいビールを飲めるようになるには、何がどのように変わらなくてはならないか、少しだけ提言させていただきました。
地元で育ったものを使って、ごまかしのない正しい方法で造ることの大切さ。それができるようにするためには、自然環境に配慮した政策や、地域の活性化、地域ビジネスの発展が不可欠なこと。これは何もビールに限ったことではなく、すべての食に当てはまるはずです。ビールが好きな方々だけでなく、食を生み出すことに関わるすべての方々に、この本が何がしかのヒントを与えるものになればいいなと思います。
木村 麻紀
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