オープンスペースを魅力的にする


書 評
『建築士』((社)日本建築士会連合会)2006.11
 この本は、大変わかり易い表題が付いているが、内容も具体的でわかり易い。まず、失敗したパブリックスペースの例が、具体的な場所名とともに写真で指摘されている。
 次に、素晴らしい空間を創造するための秘訣が述べられているが、“美しくデザインするより、どのように多くの人たちに利用される場所にするかが大切”とデザイナーには耳の痛いことも書いてある。
 この本は、アメリカでパブリックスペースを活性化するために活動をしてきたNPOの、20年にわたる協働作業の成果である。したがって、実例はアメリカが多く、知らないところがほとんどである。そこで、本文の前後には翻訳者のていねいな解説があって、わが国への適用が図られている。
 あまり利用されていない広場や公園を、どのように再生してきたか、を写真とともに具体的に紹介している。再生の一つの実例として、公園の固定ベンチに換えて、持ち運びのできる椅子をたくさん配置して活性化した例が紹介されている。椅子が持ち去られるリスクも大きいが、利用者の座るところの自由度を優先した勇気のある実施例である。
 一方、わが国の公共空間の利用は、いろんな法律のなかで、“できない”ことが多いが、これからは住民と行政が知恵を出し合う時機に来ている。その点、この本は公共空間の評価方法も示されているのでより実践的である。
 このように、この本には、公園や広場、商店街の通りなどを活性化するためのヒントがたくさん隠されているので、行政の担当者やコミュニティーのリーダーには、またとない良いハンドブックと思われる。
(大海一雄)

『高速道路と自動車』((財)高速道路調査会)2006.6
 この訳本の原本 How to Turn a Place Around : A Handbook for Creating Successful Public Spaces は、2000年に初版、2005年には多くの写真を新しいものにした第四刷が出されている。著者Project for Public Spaces は2005年に30周年を迎えるニューヨークのNPO団体で、アメリカ合衆国内外の1,200以上のコミュニティと関わり、活気ある公共空間づくりを支援してきた団体である。
 のんびりくつろぎ、楽しく過ごせる公共空間がなかなか増えない日本の都市に、例えばベネチアのサンマルコ広場やロンドンのハイドパークのような空間を創り出すためのポイントがこの本にはわかりやすく説かれている。都市再生の名の下に優れた歴史的空間やようやく愛着が生まれつつあった広場が破壊され、居心地や使い勝手の悪い空間が増えている日本にあって、この本は格好の広場再生の手引きとなる。加えて、昨年から動き始めた公共施設の指定管理者制度のなかで、公平性の名の下に規則に縛られた窮屈な運営から柔軟な運営に転換させる知恵が様々な公共空間で求められている。そうした知恵を絞り出す基本的な視点がこの本にはしっかり用意されている。この本の翻訳を企画された潟Rトブキ代表取締役会長の深沢重幸氏がはじめて本を手にしたとき、そして、翻訳依頼に応じた訳者の方々が原著を読み進めたとき、まさに我が意を得た思いであったろう。それほどに時宜を得た書である。
 本書は、第1章で、なぜ多くの公共空間が使われず活気がないのか、くつろげる空間にならないのか、その問題点を洗い出している。第2、第3章ではそうした公共空間を親しまれる空間にするための糸口を、具体的な事例でわかりやすく、的を射た写真で説明する。そして、最後の第4章で公共空間評価の観点とチェック項目、そして公共空間を親しみやすく生き生きとした空間にするためのプロセスをわかりやすく説いている。
 本書の基本的視座はコミュニティにあり、いわゆる専門家による「デザイン」のアプローチとは異なる。全米内外の1,200ものコミュニティに関わって公共空間を活性化させてきた実績をもとに、いわゆる「デザイン」では「素晴らしい場所にはならない」と痛烈に批判する。また、公的空間の管理者である公務員の官僚主義も同様に批判する。それは、デザイナーも公務員も多くの場合、コミュニティの目線でデザインし、管理しないからである。
 本書は、現状を改善しようとする熱い思いで書かれた行動の書であり、多くの地道な活動を重ねてきたからこそ指摘できるポイントがいくつも挙げられている。それは現状を改善するための観察のポイントであり、個々の公共空間を具体的に改善するための活動の手引きでもある。
 都市再生の名の下に環境と人々をないがしろにした空間が増えつつある昨今、本書が多くの人々の目にとまり、身近な公共空間を改善しようとする多くの方々の手引き書として人口に膾炙されることを強く期待している。
(千葉大学園芸学部教授/藤井英二郎)

『環境緑化新聞』 2005.12.15
人々が座れる場所を提供すること
  人々に愛され利用される公園や街路などの公共空間をつくるためのハンドブック。既存のあまり使われていない公共空間を地域の人々と共に改良していく方法をやさしく解説する。
  著者は、コミュニティの核となる公共空間をつくり、活発な利用を促すことを目的とした米国の非営利団体。国内外1200以上のコミュニティと関わり、技術支援や研究、教育等を業務としている。
  1章で公共空間の失敗例から問題を明らかにし、2章では親しまれ、使われるようになるための切り口を、そして3章でそれを具体的な事例で示している。さらに4章では公共空間の評価手法も紹介している。本書の中の主張を体現しているとしてニューヨークのブライアント・パークが度々登場する。以前は犯罪者の楽園だったが、人々の力で再生した。飲食のバラエティの豊富さや多くのイベントで様々な団体が占用できる空間の柔軟性があり、特筆すべきはたくさんの持ち運びできる椅子を提供していることだ。
  本書の発行は、公共施設の椅子や遊具関連のメーカー、(株)コトブキの企画。