町屋と人形さまの町おこし


書 評
『民家』(日本民家再生リサイクル協会)2005. 3
  新潟県最北部の城下町、村上市。鮭製品を扱う地元商店の一青年、吉川真嗣氏(現在「村上町屋商人会」会長)が一人から始め、やがて賛同者が集まり、大きなまちづくりに発展していった記録を、ともに歩んできた吉川夫人が詳細に記述している。
  話は、昔ながらの町屋のすばらしさに気づくことから始まる。その町家の内部を公開し、「町屋の人形さま巡り」のイベントを企画することにより、元気を失っていた商店街に観光客を呼び寄せ、活性化を進めていった経過が感動的に語られる。そこからは、まちづくりを成功させる秘訣や教訓、運動の原則を読み取ることができる。
  「思いついたら自ら行動をおこさなくてはならない」と吉川氏は言っている。
  吉川氏自身、全国を巡り歩いて先進事例から多くを学び、活動に生かしてきた。本書に盛り込まれた内容は、これからまちづくりに取り組もうという人たちにとって貴重な先進事例であろう。
  村上市のまちづくりは2003年度に地域づくり総務大臣表彰を受け、吉川氏は昨年、国土交通省の「観光カリスマ」に選ばれている。
(松本 薫)

『地方自治職員研修』(公職研)2004. 9
  40年前の計画のままにわがまちが破壊されようとしている―。それまで地域に関する活動をするどころか、さして愛着を感じてはいなかった一人の若者が、人との出会いに感銘し、各地を回ってヒントを得て「町屋の人形巡り」という仕掛けをつくり、村上のまちづくりの芽を生み出す。官に頼らず、わずか35万円で仕掛けたイベントが、どのようにして地域やそこに住む人々を活気づけていったのか。次々とまちづくりの装置をつくり続けた仕掛け人の妻が、その様子を一つ一つ伝える一冊。

『新建築住宅特集』((株)新建築社)2004. 9
  新潟県村上市は人口3万人の城下町。その商店街は、全国の中心市街地と同様にすたれかけていたという。本書は、商店主であり著者の夫である吉川真嗣氏が、ひとりで町おこしをはじめ、きわめて短期間に大きなムーブメントへと発展させた経緯を描いている。吉川氏は1998年に旧町人町一帯を描いたマップを作成したのを皮切りに、村上町屋商人会を結成して古い町屋の造りを観光客に見学させ、各家の茶の間に雛人形を飾り、客に見てもらう「町屋の人形さま巡り」を実施、と実に精力的に動き回る。やや大仰な成功物語が鼻につく感もあるが、きわめて具体的にさまざまな活動の成否が記されており、町おこしを行う際の参考になるだろう。