町屋と人形さまの町おこし


おわりにかえて

 村上である一人の男、吉川が起こし、自然発生的に大きく広がり育ちだしたある現象。これを全くの最初の起こりから一部始終を見てきたのは、この男本人以外には私一人でありました。非常に初期の段階から想像を超える反響があり、その周囲の反応も変化も、また吉川のその時々の細かな対応についても、そして北から南まで津々浦々を歩き通して全国の市町村の取り組みを見学し続けたその傍らにも、ほとんどと言っていいほど私は居合わせていました。そしてある時、そんな我が身を客観的に振り返った私は、自分が密着取材をしている記者同様であることに気づいたのです。
  私がこの本を書いたのも、社会学的な考察は全くお粗末ながらも、記録しておくに値する感動的な人間ドラマだと初期の段階から感じてきたからでした。同時にあるものを活かし、心からのもてなしで活性化を成した村上の事例は地域に根付く有形・無形の力の総体であり、多くの示唆に富む全国に誇れる実例との思いも手伝ってのことでした。
  これはきっかけさえ得れば、どこの地でも類似の現象を起こす可能性の大きなストーリーであり、元はと言えば私たちも他の地からヒントをもらってきたことで、今後この本をささやかなきっかけに地域から力強く発信する所が新たに出てくることを期待したいと思います。話の展開の中で非常に細かな記述にまでこだわったのも、この細部にこそ話の流れを発展させていく要因があり、それこそがドキュメントの醍醐味とも言える部分ではなかろうかという考えに立脚したことによります。
  ちょうどこの原稿を書き終える頃、一連の村上のまちづくりが総務省の平成15年度地域づくり総務大臣表彰を受けるという嬉しいニュースが飛び込んできました。まさに村上の平成に始まったまちづくりの第1章を、このような喜ばしい知らせと共に、区切りの良い形で本にできることに大きな喜びを感じ、改めて今までの展開に感動を覚えずにはおれません。
  読者の皆様におかれましては、吉川の実にコロンブスの卵的な発想と、それを次々に行動に移していく、何者をも疑わないその朴訥ともとれる率直でひたむきな姿勢を行間に感じていただき、一人でも多くの方がご自身の夢を今日から具体的にどう叶えていくかを考え、フットワーク軽く行動される契機となれば幸いです。一人一人が夢を叶える力を思い出す、もしくは取り戻す、それこそが一番の地域の活性化、ひいては社会全体の活性化の原点になると信じています。

 振り返ってみれば、本当に感動の連続の日々でした。文中でご尽力くださった一人一人の名前とその功績をすべて表現することができなかったのはもどかしい限りですが、力を出し合うことがここまでの展開になることを見せて、大きな大きな感動を与えてくださった村上市民の皆さん、夢を運んでくださったお客さん、瀧波重平さんをはじめとする陰に日向に日々奔走してくださっている村上町屋商人会の皆さん、並々ならぬご努力で催しを支えてくださっている参加各店のご家族の皆さん、安沢孝雄さん、新潟大学助教授の岡崎篤行先生はじめ学生の皆さん、壁にぶつかるたびに相談に乗ってくださり解決策を示してくださった綱島信一先生、心から感謝を申し上げます。そして何より、「最後の最後は責任の引き受け所になってやるから信じて進め」とドンと構えて後方支援に徹し、経済的基盤を支えてくれながら、ここまで自由に活動させてくれた吉川の両親には何と御礼を申し上げたらいいことでしょう。そして改めて村上の近代化に警鐘を鳴らしてくれた恩人である五十嵐大祐さんに心より感謝申し上げます。
  この本の出版に当たっては、東京大学大学院工学系研究科教授の西村幸夫先生にもお力添えを賜り大変お世話になりました。本書を快く出版に結び付てくださった学芸出版社の京極迪宏社長と的確なるアドバイスをくださった編集の前田裕資取締役、優しく励ましながら細やかにご指示くださった越智和子さん、中木保代さんにも厚く御礼を申し上げます。皆々様に心からの敬意を表したいと存じます。
  最後に我が夫、吉川には、一番の身近で人生の楽しさ素晴らしさを実感させてくれたことに対し厚く御礼申し上げ、また執筆中、私のお腹の中で不規則でハードな生活に耐え、無事に生まれてくれた長女利嘉にも一言御礼申し上げます。
 
  この本を書いている間中、その澱みなく出てくる村上での様々な事柄や思いに、いかに私がこのムーブメントに魅了されていたかを知る結果となったことを申し上げ、結びと致します。

吉川美貴
2004(平成16)年6月吉日