町屋と人形さまの町おこし


はじめに

 気づけば、新潟県村上市を舞台にいつの間にか一人歩きし、催しそのものが、多くの市民と観光客を取り込み、自己増殖しだした感のある「町屋の人形さま巡り」と「町屋の屏風まつり」。
  長い長い村上の歴史の中で、機が熟し、多くの先人たちが築き上げた土台の上に、「なにものか」の力がはたらき、一人の男「吉川」が、ある方向に動き出しました。思うに最初の出だしは吉川の足元である非常に小さなところからであり、その動機は至極明瞭で、純粋な心意気に根差すものでした。誰もが描く理想の町の姿を夢見るだけでなく、また余計な心配で行動することそのものを断念するようなこともなく、小さな実際の行動を積み重ねることに、吉川は秀でておりました。その行動の蓄積は、驚くほどの短期において、本人にさえある種の感慨に浸らせる実りをもたらし、村上の町中に衝撃をもたらしました。吉川が渦の中心となり、町の長老達は陰に日なたに見守り支え、その周りに心ある賛同者が少しずつ増え、それぞれの持ち場を主体的に得て、次第に大きなまちづくりのムーブメントに成長してきました。
  それが、全国から大勢の人が来る一大イベントとなった「町屋の人形さま巡り」や「町屋の屏風まつり」であります。いまや、催しそのものが自らの意思を持つように、内部の質的変化を伴いながら、それに関わる人々に大きな気づきと喜びをもたらし、時代の要請を具現化する方向へと動いています。
  一人の人間が一生の間に思いもよらない様々のドラマを体験するように、この村上で起こった町おこしも、これから風雨にさらされることでしょう。今後この村上で起こったムーブメントがどう変貌を遂げるか、先の先までは誰も推し量ることはできませんが、地域市民にとっては実際に自分たちが体験した、この一連の町おこしの起こりと流れを今一度振り返ることで、改めて今求めている多くの問題の解決法、もしくは改善のヒントを見出すことができるでしょう。また、この催しに直接関わらなかった人たちも、村上でのドラマをお知りになれば、自らの夢を具現化する際のヒントとなり得るものを、文中に感じていただけるのではないかと思います。
  天の意志に背く類のものでない限り、小さな行動の積み重ねがかくも広がりをみせ、思わぬ程の多くの理解と協力を得て大きく展開するものかと、一番驚き、そして感動したのは、他でもない私自身です。この感動のひとかけらでも読者の皆様に共有していただけるならば、本当にしあわせです。