次世代のアメリカの都市づくり


あとがき

  ここ10年ほど、我が国の大都市圏の一部を除く地方都市の様相が大きく変化している。まず、地方都市の顔である駅前商店街を中心とする古くからの都心部の商業活動が激しく衰退し活気がなくなっていることが挙げられる。次いで、地方都市の郊外の幹線道路沿いに十分な駐車場を備えた大規模な量販店、ファミリーレストラン、パチンコ店、中古車ディーラーなどが集積し、激しい勢いで新しいマチらしきものを形成し始めていることである。とりわけ、第二の現象を都市景観という側面からみると、画一的で効率だけの安っぽいデザインの建物群が、地方都市固有の美しい田園風景に取って代わろうとしている。これら二つの現象は、自動車社会の進展に起因する相互に深く係わりのあるものであり、我が国の地方都市に共通する都市計画やまちづくりの構造的な課題が現れたものといってよいだろう。
  一方、アメリカの多くの都市では1960年代から、急激な郊外化に伴い疲弊した都心部の再生に取り組んできており、現在も多くの都市でその取り組みが継続中である。これらの問題は自動車社会が過度に進行したアメリカ固有のものであると理解されてきたが、今、我が国の多くの都市で起きている事象をみていると、そのスケールや現象の細部、そして顕在化したその問題の深刻さと時期は異なるが、その背後に潜む問題はアメリカの都市が経験してきたものとほとんど同質のものであるように思われる。
  私自身がアメリカに留学以来過去二十数年、何度か視察や調査でアメリカを訪れ、日米の都市事情を比較したり、アメリカの知人等と意見交換をする中で、当初は全く背景を異にするものであると考えていた両国都市の事象の間に次第に上述したような重なる部分があることを強く意識するようになった。そのきっかけとなったのが、1990年代の初めにアメリカの都市計画の専門家と我が国の専門家が両国を交互に訪問しながら数年にわたり行った日米大都市圏計画会議(METROPLEX)であった。それ以前から、ジョエル・ガローのベストセラーである『エッジ・シティ』等を通してアメリカの郊外化の問題を巡る議論に強い興味を持っていたが、その会議の中で、我が国の郊外開発を視察したアメリカの知人によって、日本の郊外開発もそろそろアメリカの郊外開発モデルを後追いするのを止めた方がよいのではないか、それより日本は既に素晴らしい公共交通のネットワークを有しているのだから、それをいかに有効活用するかに力を注ぐべきではないかという指摘を受けたとき、この問題を共有することができるのではないかという気がした。そしてほぼ同時期に眼にしたのが本書であり、さらに一般にニューアーバニズムと呼ばれる新しい都市づくりの動きを深く知るところとなった。現在、アメリカにおける都市計画を巡っての専門家の間の議論の多くがスマート・グロースとニューアーバニズムに関連したものであると言っても過言ではない。
  本書の中で述べられているガイドラインの詳細の全てが都市の構造や形成過程の異なる我が国の都市の現状に適応できるものではないだろう。しかしながら車社会の進行に起因する現在の我が国の都市の構造的課題に対して、その課題の深い理解と解決に向けての新しい方向性を見出す手掛かりという点では、十分な示唆を与えてくれるものと期待している。さらに、持続可能なまちづくりの具体的な手法の一つを示しているという点でも、本書が持続可能なまちづくりの議論を前進させる一助となればありがたい。
  最後に、何度か挫折しかけた本書の出版にあたり、出版助成をしていただいた財団法人住宅総合研究財団に感謝をしたい。また、本書の出版の機会を与えていただいた学芸出版社、そして翻訳という手間の掛かる作業に編集の労をとっていただいた編集部の前田裕資氏、中木保代氏に深く謝意を表したい。

2004年5月
倉田直道