日本の風景計画


書 評

『都市問題』((財)東京市政調査会) 2004. 2
  本誌『都市問題』の編集が行われている市政会館は戦前に建てられ、その風格と美しさは付近一帯の風景に欠かせないものとなっている。皇居周辺の「美観地区」にある建造物のなかでも、その白眉と自負することも許されるだろう。緑の多い日比谷公園と調和していることもあり、道行く人びとが賞賛のまなざしで見上げていることも、しばしばである。
  もっとも、美しさが目立つのは珍しいからとも思われる。総じていえば、日本の都市はあまり美しくない。高層ビルが乱立する東京はもとより、地方でも美的に魅力ある都市は少ない。日本のまちの風景については、建築の「自由」が行きすぎ、「放縦」でさえあると残念ながら言わざるをえない。
  こうした現状に対して、美しい風景を残すための努力が各地で続けられており、それをまとめたのが本書である。副題の「都市の景観コントロール 到達点と将来展望」が示すとおり、日本における風景計画の歴史から現状、必要な政策までが収録されている。しかも図表や写真、地図が多用されていることで、大変分かりやすくもなっている。
  大まかな構成は、以下のとおりである。
  第T部「制度としての風景計画」では、戦前・戦後における風景計画の経緯と各種法制度、そしてまちづくりのあり方など、主に理論面が触れられている。第U部「実践の中の風景計画」では、京都市や臼杵市、柏市などの実例が紹介されている。そして第V部「これからの風景計画に向けて」では、風景基本法の制定をはじめとする具体的な政策提言がなされている。上記のようなさまざまなテーマが多くの人(21名)によって書かれており、本書一冊でこの分野の基礎を一通り学ぶことができる。
  なお、「景観」ではなく「風景」となっている理由を、本書は序文で次のように述べている。「……操作可能な「景観」ではなく、広域の地勢や文化を背負った「風景」の方が適切に対象を表現している……。」この言葉の意味するところは大きい。日本で都市景観が問題となるのは、歴史的町並みや特異な自然を持つなど、いわば例外的なところであった。しかし、地勢や文化は、どの都市のどの地区においても重要である。そこで本書は対象を広げて、一般的な市街地の問題まで扱っている。
  特別でもなく有名でもないが、それでもかけがえのない「わがまち」を大切にしたい。そう願っている方に、本書をぜひおすすめしたい。
(Mo)

『地方自治職員研修』(公職研) 2004. 1
 操作可能な「景観」ではなく、広域の地勢や文化を背負ったものとしての「風景」をいかに守るか。本書は、現時点において都市政策としての風景計画がおかれる到達点、すなわち九〇年代前半に整備された制度的な仕組みの限界を明らかにし、次へのステップアップをどのように進めるべきか提言する。歴史的町並みや良好な住宅地など、これまで景観行政が扱ってきた“特別な場所”だけではなく、一般市街地の風景問題も取り上げた研究の大成。数々の都市の取り組み事例が詳細に紹介されている。