福祉転用による建築・地域のリノベーション
成功事例で読みとく企画・設計・運営

おわりに


 本書は2012年秋に出版した「空き家・空きビルの福祉転用」の発展形ですが、この5年でめまぐるしいほど社会状況や地域社会が変化しました。少子高齢化や人口減少が進むなか、移住や定住、地域活性化に代表されるように地域への関心が高まっています。また空き家、リノベーション、転用(コンバージョン)といった用語が一般に広く用いられるようにもなりました。それらとともに,地域資源の既存建物を利用する福祉転用の重要性はますます増大したと考えています。誰にとっても「幸せなまち」としての地域で過ごしていくために、福祉転用は有益な手段です。ただその福祉転用は、今までとは異なる新しいタイプの福祉施設への転用である必要性を含んでます。
 福祉転用は、始まりは地域のなかの小さな動きであるかもしれませんが、時間の経過とともに地域の中での役割は大きなものになっていくと我々は信じています。本書で紹介する事例には開設後数年の時間を経過している福祉転用の事例もありますが、それらはいまや地域にとって必要不可欠な存在になっています。そういった点で、福祉転用は単に既存建物を福祉施設に転用するだけでなく、地域そのもののリノベーションあるいは転用につながる可能性があり、二重の意味が生じてきました。
 本書では、都市部や郊外住宅地、農村部まで多様な地域にある、多種多様な既存建物から福祉転用された事例を取り上げ、動機・経緯・課題・地域への効果・予算を紹介しました。また福祉転用を実現するための10のステップや10のアドバイスを示しました。今後、福祉転用の企画・設計・運営にかかわる建築関係者(設計事務所、工務店など)や福祉事業者だけでなく、地域をなんとかしたいと考えている住民にとっても、本書がその一助になればこの上なく喜ばしいことです。
 最後になりましたが、本書に協力していただいた福祉施設や設計事務所等関係者の皆様に心から感謝を申し上げます。なにより皆様がそれぞれの地域の課題に真摯に向き合う姿勢に敬意を表します。皆様が取り組まれている活動から多くの示唆を得たことが出版に結びついています。また出版に際し、前田裕資様(学芸出版社)、村角洋一様(村角洋一デザイン事務所)には多くの時間を割いて丁寧に編集をしていただき感謝を申し上げます。なお出版は、文部科学省科学研究費基盤研究(B)「地域資源の利活用マネジメントにむけた福祉転用計画システムの構築に関する実証的研究」(課題番号26289213)により実施しました。
研究グループ幹事一同
松原茂樹(大阪大学)
加藤悠介(金城学院大学)
山田あすか(東京電機大学)
松田雄二(東京大学)