京町家の遺伝子


まだまだつづくのだが … おわりに

 四十五歳から始めて、十八年の歳月をかけて、「京の建築」を追いかけて来た。過去の人、すごいことを次から次へと考え出し、みごとな京都をつくって来た。二〇〇六年を迎えた今、働きすぎに働いた日本国中の中高年。それに学生、若い女性たちが、京の地図を片手に歩く姿をみるにつけ、先人たちの偉業に感謝する一方で、これ以降の京都どうする、どうなるのと心配を半分持ちながら、撮影をつづけた。が、建築家山本良介もとうとう六十三才になってしまった。何とか、七十二才まで頑張って、次は「京の四季」。「京の職人たち」「京の色」をも写真に納めてみたいと、また新たなる思いを持ち始めたが、京の建物で十八年かかった。しかもまだ志半ば。「京の四季」に十年。「職人たち」は三年、「京の色」は八年程はたっぷり掛かるだろう。ある程度、平行してやってみるとして、最低二十年の歳月が必要で、時に「さぼる」「くたびれる」「雨や風」、歳をとって、よぼよぼの三十年……九十二歳。
  気持ちに「気」を送っても効かずとあれば、あちら、こちらのよい薬屋を訪ね、「神」「仏」に願かけて……何んとかならないのと……。遠い見はてぬ空ごとを、思いつつ二〇〇六年の夏、八月十六日、みごとに点火。真っ暗闇に灼熱の色、「大」の文字、これこそ京の色。やはり「夏の京」によく似合うと。色の探索も面白そう……。
  四季を知って、色を知って、職人たちを知らなければ、京を語るに手はずは整わない。本当の京都の建築をつくる遺伝子も完結しない、と思いながらも、大変大変と……。それとも、もう一度生まれ変わって、継続するかと思ったりしているのだが、それ以上に魅力的なものがあって困っている。出来れば、次の世は「京の食べ歩き」を希望したい。うまいもの食べて、飲めない酒に酔いながら、仲間と「もういい」と思うほど語りたい。当然、金色の鱗雲の間からもれる仲秋の名月。ちょうど、「時」が良く、大沢の池に金鱗が映る、酒を飲みつつである。「アッ」これも「京の色」…。
  たわごとをいっているのだが、なにはともあれ、死ぬまで頑張ってみることにする。
  この本を編集するにあたり学芸出版社知念さんに、すき勝手放題を申し上げた。また、この本の企画構成に僕のたわごとを編集してくださった山本剛史さん、実にお世話になりました。お蔭様で希望通りの「京の建築の遺伝子」がまとまりました。たぶん、多くの人たち、フムフムと読んで下さっていると思っています。
  この場をおかりして御礼申し上げます。長い間のお付き合い、皆様有難うございました。

 

京を語る 建築家
 山本良介