街を歩くと、センスの良い花に彩られたコンテナガーデンがビルの玄関口に置かれていたり、草花が住宅から溢れ出している情景にめぐりあうことが多い。書店を覗くとガーデニング関係の書物が占める割合が増え、男性が立ち読みしている姿も見かける。
こんなにガーデニングがブームになったのは何故だろうか。振り返ってみると、江戸時代に、街々の路地や塀沿いが鉢植えで飾られていた様子を見て、西洋人は江戸を「花の都」として紹介しているように、もともと日本人は小さな空間を利用して植物を育てる趣味や生け花に見られる造形感覚を持ち合わせていたが、こうした日本人の精神性と現代的な暮らしのセンスが一緒になって、ガーデニングブームがやってきたのではないかと考えられる。
私がガーデニングに象徴される草花を主役にした庭づくりと本格的に出会ったのは、今から15年位前のことで、1984年に発行された1冊の書物の中でガートルード・ジーキルという女性造園家とめぐり合った頃であった。この書物でそれまでの造園史上、表舞台にあらわれていなかった女性造園家の名前を見つけ、同じ女性として彼女に親しみを覚えた。また同年、国際造園家会議が開催されたボストンで「ガートルード・ジーキルの花の庭」と題された展覧会のポスターを目に留め、その展覧会に赴いて、アメリカでも彼女が注目されていることを知った。その時から、少しずつ彼女と親しくなろうと文献に目を向けていたが、1990年に開催された「国際花と緑の博覧会」における花修景を考えている時には彼女の植栽プランは多いに参考になった。
しかし、昨今のガーデニングブームを見るにつけても、本国のイギリスはもちろん、アメリカでも研究書や紹介書が多数出版されている彼女の庭づくりにかけた情熱やセンスをもう一度私自身が深く知っておきたいという思いが強くなってきた。
こうした思いを込めて、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍し、現代の我々の暮らしに深く結びついてきたイギリス庭園の一つの様式を形づくった女性ガーデンデザイナーの人物像やその社会的背景、デザイン理論を紹介していきたいと思う。
本書のT章ではジーキル以前のイギリス庭園の流れを、U章ではジーキルの生い立ちと彼女らしい庭が生まれてきた社会的背景について、V章では彼女の活躍を支えた建築家と園芸誌編集者について、W章では彼女のデザインの特徴をなす五つのジャンルの庭園について、X章では今日のガーデニングの主流をなす彼女のカラープランニングについてみていくこととする。そして最後にY章では、日本の園芸趣味と彼女のガーデンデザインとの関係に焦点をあて、日本のガーデニングブームの背景を考えてみたい。
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