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 木と日本人


 木の系譜と生かし方

sirakaba


まえがき



 日本人の木についての、あるいは森林、林業についての知識は驚くほど低い。または相当片よっている。木は切らないで放っておくことが地球のため、国土のために最善なのだと信じている人が大勢いるのもその一例である。木は切って末長く利用し、跡地にはよく生長する若木を育ててゆくことが最善の道だということが常識になっていないのは、一に我々専門の立場にある者の怠慢かもしれない。木が超安値を続け、山を守る人たちが山を支えきれなくなってきた昨今、日本人が少しでも木や山への理解を深め、親しみを持って木を支援してくれることを期待してこの本を出すことにした。
 本書は(財)森林文化協会が発行している月刊誌『グリーン・パワー』に1997〜99年の3年間連載してきた拙文「木の紳士録」を加筆増補したものである。外国産も含めて日本人になじみの深い樹種を取り上げ、それぞれを解説したのだが、木には樹木としての木、木材としての木の両面がある。とかく、前者は解説してゆくと樹木図鑑の記載のように無味乾燥な専門書になってしまうし、後者は工業材料としての木の材質だけの記述に片よってしまう。そのような類書はいくらでもあるのだから、本稿では細部にはこだわらず、むしろ人と木の長いつきあいの中から挿話を拾い、広い範囲の話題を提供しようと試みた。ただし、学術的に誤りがあってはウソを教えたことになるので内容は充分にチェックしたつもりである。たとえばある樹種の巨樹をあげるにしても、現在の状態は目で確かめるか、地元の然るべき人に確認してもらわなくてはならない。調べたら既に枯れてしまったというので、急遽別の木に切り替えたこともたびたびある。そして要するにそれぞれの樹種の、人間で言えば姓名、住所、系類、趣味といったようなあれやこれやを、深くはなくても一応網羅して、それがどんな木かを浮かび上がらせようとしたのが「木の紳士録」であった。
 今回はその原本に筆を入れ、挿絵を増やすなど、より読みやすく肉づけをして『木と日本人』と題して刊行することとした。読者が断片的な知識、片よった知識でなく、もっと幅広くそれぞれの木についての親愛を深めて頂ければこんな嬉しいことはない。浅学非才の著者のことゆえ、内容について種々御指摘頂くことも多いかと思う。どうか遠慮なく御叱正たまわりたい。
 対象は樹木として、あるいは木材として我々になじみの深いものから取り上げた。
 欧米の知識人には、自分の国の歴史や環境に関する理解と意見をしっかり身につけていて、さて新しい事態に対応しようとする人が多い。日本人にも見習ってほしいことである。一方、専門家でなくても樹木に関する一応の知識を持っている外国人に感心することがある。長い間、木の国、木の文化の中にいて、DNAを育ててきたはずの日本人なら、せめて木のことについては、外国人を感心させるほどの理解と知識を持ってもらいたいものである。この本がせめてそのお力添えにでもなってくれることを乞い願うものである。
 専門書ではないので、学名を省くかどうかで迷ったが、学名はいわば、芸名に対する戸籍上の名前のようなもので万国共通の言葉である。外国人と話すときなどは、学名でないと通じないで誤解される事さえある。そこで見出しの樹種など主要なものについては、文中に学名を片仮名書きし、その意味をも書き添えた。巻末に正規の学名の一覧表を付して、より深く専門書等を学びたい読者の参考とした。
著 者    



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