快適空間づくり 住宅設計のレッスン


はじめに

 住宅ほど身近なものはない。しかし実際に建築デザインに取り組んでみると、設計のプロでもなかなか難しいものだ。
  「住宅にはじまり住宅にかえる」と喩えられるように、設計すればするほど多様な広がりが出てきて、終わりが見えてこない。また、敷地条件、住まい手の要求は千差万別で、もちろんこれがデザインの魅力にもなっているが、マスターするにはそれなりの知識と時間が必要である。
  多くの設計者は、事務所の所長や先輩のアドバイスを得るだけで、自己流に設計しているのが実情ではなかろうか。住宅は設計の原点であるにもかかわらず、学校はひと通りの設計教育に留まっている。
  この本のねらいは「健全にして、住みやすく、魅力ある住宅をいかにつくるか」にある。もともとデザインの分野は、多様な価値観と自由な表現が許され、さらにその時代感覚も加わり、評価もいろいろで定まることがない。しかし住まい手は「住みやすく、美しく、さらに、末永く住める家」を求めていることは確かである。
  本書では「快適な空間を持ちながら、魅力ある住宅をどのようにつくればよいか」を軸に、敷地の読み方、平面のつくり方とタイポロジー、居間・食堂を主役に、外観のあり方など、どちらかと言えば機能の問題よりも、実際のデザインにかかわる要素に視点を置いている。
  したがってすぐに役立つ、断熱工法、台所と水廻り、収納、建材の選び方、あるいは法的問題、コスト、工事監理など具体的な事柄についてはあまり触れていない。
  ここでもっとも重要なことは、住宅の特徴である接地性をどう捉え、敷地をどう生かすかにあり、建築家の豊かな感性を通して、住宅の全体像をいかに早く見つけ、環境に合わせて魅力ある形(空間)をつくるかにある。むろんいろいろな技術の問題もあるが、これらを解決した上でのデザインであることは言うまでもない。
  本書は「どこから住宅設計を進めればよいか」「学生時代の勉強不足を少しでも補ってみたい」、あるいは「これから家を建てたいが、その前に役立つ住宅の基本知識を学んでおきたい」などを抱く読者に対して、できるだけ事例を中心に解説している。
  現在の住宅は、料理や衣服と同様に、他国には見られない多種にして多様なデザインが咲き乱れ、わが国特有の住宅文化をつくり出している。しかし、国際化が進めば進ほど「日本の住宅デザインとは何か」が問われてくる。その多彩なデザインが一定レベルで評価され、気候風土に適した住宅が発展し、広がることを期待している。
  本書を通して、住宅設計の仕組みとそのつくり方を理解いただき、住まいに関心を持たれる方々に、その知識の一端として役立てていただければ幸いである。

  2007年 夏
  著 者