都心居住 都市再生への魅力づくり


書評

『計画行政』(計画行政学会) Vol.26
 都心居住推進は、いわゆるバブル期により一層進んだ都心部での過疎ともいえるような状況において、都心自治体はもちろんのこと国レベルでも唱えられてきた。にもかかわらず、なかなか都心居住は進まなかった。しかし、近年、失われた10年ともいわれるバブル崩壊後、東京など大都市においては都心回帰現象がみられるようになってきた。東京ではオフィス過剰が問題となろうとの指摘はあるものの、都心再開発が各所で行われ、マンション建設が相次ぎ、高度経済成長期に郊外に移った大学までも都心回帰の様相を見せている。
 本書は、経済発展期における業務・商業機能の集積が都心部を「単機能化」させ、都心部から生活の場をなくしてしまったこと、都心部を再度生活の場に変えることにより都心部を変え、再生させようとの想いから、都心居住を論じている。都心居住を単に住むだけの問題でなく、都市再生の原点といえる都心部の魅力づくりの核と考えて、都市における都心部の歴史的文化的価値の認識、都心部におけるまちづくり活動、都心部に隣接する周縁的空間の再生など、「多元論」的視点で「都心に帰ろう、都心に住もう、都心を変えよう、都心を元気にしよう」を述べている(本書より)。
 本書の3分の1を執筆している故中筋氏は、四半世紀も前から都心居住を目指す運動を行ってきた。本書は氏をはじめ都市に魅力を感じ、さらに魅力的にするための研究会を積み重ねている非営利の市民団体「インターシティ研究会」のメンバーや研究会のゲスト講師らにより執筆されている。
 本書は、3部構成である。第T部「都心居住の新しいスタンダード」は、都住創(都市住宅を自分たちの手で創る会)のリーダーであった中筋氏により、わが国で郊外居住スタイルの対比として都心居住スタイルが形成されてこなかった状況、新たな都市住宅創造の可能性が精力的に論じられている。かつてはDINKSやDIWKSや独身貴族が都心居住者の代表と考えられていたが、近年では、郊外に居住していた子育てを終えた熟年世代が都心部の文化施設・商業施設や交通機関の充実を享受すべく都心を目指すようになってきた。しかし、わが国では、職住が一体となったイギリスでの田園都市構想を郊外住宅のみで構成される田園住宅構想としてしまったとか、欧米の都心部での質のよいアパートメントがそのまま導入されず粗末なアパートが都心部を構成してしまった。など、など。その結果、上述のような都心を目指す人たち向けの住宅が足りず都心居住を妨げている状況にある。そのため、都住創はこのニーズを満たすような良好な高層高密度の都市住宅をコーポラティブ方式で提供しており、その例がいくつか示されている。
 第U部「都心のポテンシャルと再生への視点」では、都心回帰といわれる都心部マンションの供給状況、サンプル調査による入居者像、郊外居住と対比して考える「スタイルとしての都心居住」の課題・推進、都心居住推進の担い手としてのハウジングNPO、大阪都心部のまちづくり活動である「船場ニューポート」、異人町の再生「川口まちづくり」の活動、大阪の都心「船場」における都市資源の発掘、歴史的文化的都心の見直しなどが論じられ、提唱されている。(大阪)都心の魅力を紹介し、都心居住を推奨するものとなっている。
 第V部「都心の将来像と都市再生」では、21世紀に向けての都心のあり方、大阪都心の再生、魅力づくりの戦略が論じられている。東京一極集中が続く中で大阪市の昼間人口を500万人にすることはなかなか難しいのではないかと思われるが、水辺を活かしたまちづくりなど一時期に比べるとはるかに改善された環境により夜間人口の増加が期待できそうである。
 都心居住論や都心居住推進はさまざまな立場で論じられているが、本書ではあくまでも都心で暮らす生活者の立場からみた都心居住論が展開されている。都市のために生活者は都市に居住するのではない(本書より)。都心回帰を志向する生活者のニーズを満たす都心の再生が望まれる。本書は大阪を対象とした事例などから論考されているが、都市資源を生かす都市再生など他都市でも参考になる点は多い。
(東京都立大学大学院都市科学研究科教授/萩原清子)


『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2002.9
 一時期の異常な地価の高騰もようやく落ち着きを取り戻し、それに伴って都心への人口回帰が見られるようになってきた。しかし現在の都心居住の生活スタイルは旧来の郊外型居住の生活スタイルをそのまま都心部に持ち込んだものに過ぎず、都心居住の新しい生活スタイルは見えてきていない。
 大阪を中心とする自主的な非営利の研究会であるインターシティ研究会の4作目の出版物となる本書は、諸外国とは異なる郊外型居住の道を歩んだ日本の過去を振り返る第T部、ハウジングNPOや歴史的文化都市の見直し、異人町の再生など、都心居住を巡る様々な視点を提供する第U部、21世紀にむけた都市のあり方を都心居住という視点から論じる第V部からなる。都市の魅力は人が住むことから生まれてくるという研究会メンバーの共通する想いから、都心の新しい魅力的な生活スタイルの模索を通じた都心居住のさらなる推進と、居住を通じた魅力ある都心の再生が唱われている。


『建築士事務所』((社)日本建築士事務所協会連合会) 2002.4
 マンションの人気が高まり、都心人口が増加している。政府や自治体の政策にも都市再生が盛り込まれる。大都市大阪を例に、住宅問題、都心回帰現象の内実を分析。都心のポテンシャルをまちづくりに生かす具体的動きを紹介する。都心居住の新しいスタンダードへ、1986年に設立された自主的な都市研究と情報交換の会であるインターシティ研究会メンバーによる研究成果。


『新建築』(叶V建築社) 2002.3
 今、郊外住宅より都心のマンションに人が集まり、同時に都心居住への課題が問われている。執筆者のひとりで去年の夏急遽された中筋修氏は、25年間、都市に住み、都市生活を楽しむためのグループ住宅づくりに奔走してきた。中筋氏は、デザイナーズマンションの登場を評価し、不動産の中古市場に建築家が積極的にかかわるべきだと本書で発言している。将来像のない都市の問題点と可能性を示唆し、都心居住へのあり方を追究する1冊。
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