まちづくりの近未来


はじめに



 世紀の変わり目に際して、社会では「21世紀の……」という言葉が飛び交っている。時間は切れ目なく続いているが、千年紀という変わり目は、私たちに新たな気持ちを起こさせている。このような機会に、新たな人間として生まれ変わりたい、新たな会社として出発したい、新たな自治体として出発したいという声が、ここかしこで聞こえてくる。
 このような時期にまちづくりも変革を求められている。そこで『まちづくりキーワード事典』をまとめた中心メンバーで、世紀の変わり目に、未来を展望する本を出版しようと企画した。
 取り組みを始めたのは1998年の中頃で、区切りの良い年に出版しようと意気込み毎月のように勉強会を始めた。意気込みは良く、アイディアも多く議論は沸いた。しかし、まとめる段になると滞り、メンバー一同このような未来を論じる本をまとめることの難しさを痛感した。
 本書の題として『2025年のまちづくり』という案もあったが、年数を入れることはすぐに却下された。「近未来」としたが、それでも難しい。それだけにまとめるのには苦労した。紙面の都合で取り上げなかったアイディアも多かった。
 さて、まちづくりも生まれ変わらなければならない。20世紀後半のパラダイムは、WHOによる「安全性」「保健性」「利便性」「快適性」であったといえよう。しかし、中心となるべき理念がなかった。
 17歳に代表される青少年の犯罪や、両親による幼児虐待などのように、人間性が荒廃している現在、求められるのは、物的な計画が主流となった20世紀のパラダイムを、人間性をテーマとするまちづくりへと変えることではないだろうか。
 今の時代、社会に求められるのは人間性の回復である。そして新たな人間による精神文明の創造が求められている。本書ではそのような時代にふさわしいあり方として「人間讃歌のまちづくり」を提案している。
 これからは、人間を捉えなおすことが求められ、新たなコミュニティの創造が求められるだろう。
 本書の1章では新たな理念と目標について考え、2章では新たな時代に重要となるキーワードを考え、3章では問題となっている市街地別に様々なアイディアを盛り込んでいる。4章では現在は小さく現れているが将来的には重要になると思われる要素を扱い、最終章ではまちづくりの近未来を支えるシステムについて述べている。そして、近未来をキーワードで描くように努めた。
 本書は、加藤孝明、須永和久、中村文彦、蓑田ひろ子に私を加えた当初のメンバーに、後日、野口秀行が加わり企画、編集を担当した。そして最後に、佐谷和江、中村昌広、松本暢子、松本眞理が加わり執筆した。
 本書をまとめるにあたっては、学芸出版社の前田裕資氏の尽力が大きい。各人の多様な論文を何回となく構成し直し編集を重ねながら1冊の本にまとめていただき、執筆陣一同感謝している。まさに執筆陣に前田氏を加えたコラボレーションの結果である。
 本書の提案については、執筆陣一同、必ずや近未来に良い示唆を与えるものと確信している。そして、様々なご意見をいただけることを期待している。是非お聞かせいただければ幸いである。
 今ほど未来を展望するのに良い機会はない。共に新たな社会をつくっていきたいと願っている。


 

 2001年5月  

 まちづくりコラボレーション代表 三船康道

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