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協働のデザイン




序にかえて



−新しい公共を拓く「協働のデザイン」−

「協働」の時代が到来しつつある。それは自ら考え、自ら発意し、自発的に動くボランタリーな市民が主体となる「市民社会」の時代でもある。多様で多元的な社会のニーズを市民参加によって実現しようとする、NPOを核とした市民セクターへのパワーシフトの時代でもある。人、モノ、金といった社会資源を「官」から「民」に分権、分責する時代ともいえよう。

 また、多元的で多様な価値観を持つ、選択肢の多い参加型の社会が、真に豊かでタフな社会だと考える。それは、社会の多様なニーズに対応する社会サービスや社会システムが、行政・企業・NPOの各セクターによって多様に多元的に提供され、人々がそれを主体的に選択でき、同時にサービスの提供者としても参加する社会である。

 私は、現代社会の閉塞状況を切り拓き、現代的課題を解決し、持続可能な社会を築くためには、行政・企業・NPOの各セクターが、それぞれの特性と社会的役割に応じて、パートナーシップによる市民社会を再構築することが必要だと考えている。それは、明治以来公共サービスを行政セクターにすべて任せてきた社会構造を、行政とNPOが役割分担して担う、「新しい公共」へと構造転換することを意味する。

 そのためには新しい協働の方法、社会的役割分担、市民分権の考え方が必要で、新しい公共の担い手としての「NPO」のあり様が、今後の市民社会の鍵を握っているといっても過言ではない。「協働のデザイン」とは、新しい公共を市民の手で拓くための理念を形にするものなのである。


−本書の5つの課題−

 さて、私がこの本で書いてみたいとおもったことは5つある。
 1つは、市民参加を基本とする協働の時代が到来しつつあるが、官民あげての市民参加、NPOへの無防備かつ過剰な期待は、ひとつ間違うと大政翼賛的な市民参加、下請け、共依存関係、癒着的な協働、行政の責任回避に陥る危険をはらんでいることだ。
 上意下達を旨とし、丸く収めることを合意形成の基本的理念としてきた日本の「世間」型の社会システムの構造転換、文化の変革なくしては、真の「市民参加」「協働」を実現するのは本来できないことではないだろうか。それは社会システムと文化の変革、まさに「市民革命」なしには実現し得ないものである。

 それにもかかわらず、市民参加、協働の必要性が社会的に認知され、今や、政府、地方自治体のマスタープランのうたい文句や、首長や議員の選挙公約にまでなる状況であるが、これはどこかうさんくさい。事実、一歩踏み込んで、それらの当事者、関係者に「市民」とは何か、「市民社会」とは何か、その実現のための「市民参加」とは何か、市民参加を基盤としたNPOと行政の「協働」とは何か、真の協働による「新しい公共」の実現とは何か、を問いかけてみると、明快な答えは出てこない。

 また、行政がNPOに特別枠を作って支援するという現在のやり方は、真の協働を実現していくという方向とは違うものだと思う。本来なすべきことは、まずNPOが多様な社会サービスの領域に参入できるよう機会の平等を確保することを目指すべきである。例えば、規制緩和、中小企業への低利の融資制度など、既存のしくみや制度をNPOへ適用できるようにすることが大切だと私は思う。NPO促進税制の導入などNPOの新規登場による現存の社会システムの具体的な見直しを早急に実施し、NPOが行政には向かない、出来ない公共サービスの担い手として公共サービスの市場にあたりまえに参入できるようにすることがまず必要だと思う。こうした協働実現のための社会システムの提案、具体策づくりが必要である。

 「市民参加」「協働」の必要性が声高にいわれ、NPOフォローの風が吹いている今日こそ、真の協働とは何かを真摯に考え、概念を整理し、社会に問いかけ、真の協働を実現する方策を私は問いたい。

 2つ目は、参加、協働型社会の要となる「人材」についてである。私が展望する持続可能な真に豊かな社会とは、NPOと企業、行政セクターが協働したり、補完しあったり、ときには競合したり、反発しあいながらそれぞれのセクターの特徴を生かしながら切磋琢磨し、多様な社会サービスを創造、提供する社会である。そうした新しい公共を築いていくためにはNPO法をはじめとし、協働を担保する様々な法律やルールが必要だが、何よりも大切なのが「人材」である。第一セクター(行政)と第二セクター(企業)に偏っている社会的資源、人、モノ、カネ、情報のアンバランスを変えて、NPOを核とした市民セクターを強化していくことが、現代日本の最大の社会的課題、チャレンジといっても過言ではない。そのためには協働を促進する制度やルールが必要なことはいうまでもないが「要」となるのは「人」である。
 人づくりは一朝一夕にできるものではない。必要なのは、これからの市民社会を拓く新しいリーダーの発掘と人材養成、NPOとの協働をすすめられる行政、企業の人材養成など、「人づくり」、新しいリーダーシップの形成である。
 私が代表理事を務めている特定非営利活動法人NPO研修・情報センターは、こうした人材養成を専門とするインターミディアリーNPOとして「参加のデザイン」の理論と手法を活用した独自の研修プログラムを開発し、研修事業を多様に展開してきた。
 本書ではそうした経験と成果、蓄積のなかから特に協働のデザインをすすめるための「協働コーディネーター」を、これからの市民社会を参加、協働型にしていくために不可欠な専門職能として位置づける必要性についての理論と、その人材養成のあり方についてまとめたい。
 3つ目は評価システムについてである。特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは、ここ数年、真の参加、協働型社会をつくっていくためにはNPOと行政の協働のパートナーシップづくりや評価システムの開発が必要と考え、シーズ(=市民活動を支える制度をつくる会)と「自治体とNPOのパートナーシップフォーラム」を共催してきた。また、せんだい・みやぎNPOセンター、まちづくり情報センター神奈川、ひろしまNPOセンター、評価みえ、東京ボランティア・市民活動センター、IIHOE(人と組織と地球のための国際研究所)、三重県市民活動センター等々、官民のインターミディアリーNPOおよびサポートセンターとのネットワーキング組織「評価システム研究会」をつくり、調査研究をすすめている。これらの研究はまだその途中であるが、議論のプロセスとそこでの多彩な内容を書くことによって、読者にパートナーシップや協働の評価をめぐる議論への参加を呼びかけたい。
 4つ目に書きたかったのはコミュニティ・ビジネスとしてのNPOの起業の実践の具体策である。市民社会をしなやかで弾力性に富んだ社会にするためには、現代社会の「角質化」した部分をまず取り除くことからはじめることが必要だ。角質化した人々の「こころ」をそのままにしては再生はあり得ない。特に次代を担う若い人々が希望と勇気をもってNPOセクターに参画していけるような多様なエンパワメントプログラムを開発、実施していくことが必要だ。
 私はここ数年、コミュニティ・ビジネスとしてのNPOの起業を「コミュニティ・レストランプロジェクト」で実践してきた。その実践プロセスをとおしてNPOの起業へのチャレンジの面白さを伝えたい。
 5つ目は長年、NPOを実践してきた立場から、これからNPOをやっていこうという人々へのエールである。NPOの実践にあたっては、@個々のNPOのミッションと自分の役割をはっきりさせること。有言不実行な半端な仲間と組むくらいならひとりでもやる勇気をもつこと。Aお金のないことをなげいているより、知恵をだす仕組みを考えること。共感のマーケティングをひろげ、健全な非営利の経営組織となること。Bいいことやっているという甘えを捨てること。アカウンタビリティをもって他のNPOのモデルになるような活動をめざすこと、といった「覚悟」をしっかり持つことだと思う。


−共感と広がりにむけて−

 これからの市民社会は高齢社会でもある。ひとりひとりが新しい公共の担い手となり、自らが多様な社会サービスの受け手であると同時に、つくり手ともなる共助型の社会に構造転換していくことが不可欠である。「観客民主主義」「お客さん市民」から脱却して個々人が主体的に「市民参加」していくためには、参加の核となる「NPO」の社会的役割はますます大きくなる。NPOが拓く市民社会のデザインを提案する本書がNPO、行政、企業、多様な分野、立場の方々に読んでいただけると幸いである。
 多くの読者の共感を得て、「協働のデザイン」の考え方や「協働コーディネーター」という職能の必要性が市民権を得て定着すること、それを広げていくことが私の希望であり、ミッションである。
世古一穂


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おわりに
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書  評



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