建築トラブルにみる常識非常識


まえがき

 長らく(社)日本建築協会出版委員会の委員を務めております.その委員会で,一般の人の建築を見る目が厳しくなってきていますが,中には行き過ぎて過敏になっている面もあるのではないか,との論議がなされました.
  私も同感でして,業務を通じて,建築に過敏になったあまり,地震がきたらこの建物はつぶれてしまうのではないかと,本当に不安になっておられる方が多いことに気づきました.
  そしてその原因は,本文中でも述べますが,建築関係者との相互不信があるように感じているのです.
  工務店や職人さんは,自分たちの都合により,やるべきことをきちんとやっていないのではないか,設計者は本当に自分が望んでいるように設計してくれているのだろうか,設計者の好みを押しつけられているのではなかろうか,などの疑念にとりつかれていることが多いようです.
  そして,ちょっとした不具合,例えばコンクリートや塗り壁のひび割れとか,木材の反りなどを見つけると,やっぱりそうか手抜きをされたかとなり,いくら釈明しても受け付けてくれない状態になりがちです.
  そのような不具合は,適切な補修を施せば,建物の構造安全性,耐久性・機能を損なうものではなく,ある程度やむ得ない,建築のローテクさに原因があることを,建築関係者は一般の人に説明しておかなければならないと思います.
  また,説明を聞いてもらえるような信頼関係をつくっておかなければなりません.
お互いの信頼関係をつくるための最初の出会い,設計者・施工者・監理者を決める時にどうしたらよいか,そのことにも触れました.
  監理者は,信頼関係をつくるかすがいのような役割も果たすものと思います.
  そして,コンクリートのひび割れ,左官塗り壁の問題点,垂直に立てるとか水平な面を作ることなど,建築の実態をできるだけわかりやすく説明しています.
  建築をよく知っている人にとっては,当たり前のことばかりでしょう.しかしこの当たり前のことが,一般の人から見ると当たり前ではないようなのです.
  そのあたりの事情をフローチャート化しましたので見てください.目次の後に掲載させてもらいます.
  建築のありのままの姿を説明するときの参考書として,利用していただけたら良いなと思っています.
  建築をよく知っている人にとっては,どうということもない内容でも,知らない人に説明するときには役に立つと思います.
また,ハウスメーカーの営業マン,小さな工務店の経営者にもぜひ利用していただきたいと思います.
  それから,自宅を建てようかと思っておられる一般の方にもぜひ読んで欲しいのです.
  我われ建築関係者は,もっともっと一般の人に建築の実態を説明しなければならないと思いますし,そのためには勉強も必要だと思います.この本が,そんなときにお役に立てれば幸いです.

荒川治徳
2004年8月