地域資源を活かす温暖化対策
自立する地域をめざして

おわりに


 これまで、日本では地球温暖化防止の最重要手段として原子力発電の拡大政策がとられてきました。しかし、東京電力福島第一原発事故によって、地震国・日本では、それが極めて大きな危険を伴うものであることが明らかになりました。これまで、原発立地周辺の自治体には、毎年、総額1,100億円前後の交付金が出され、学校、消防署、公立病院等のインフラ整備や運営などに使用され、他の地域に比して発展しているかのようにみえていました。しかし、その繁栄は、今回の事故でみられるように、一瞬にして無に帰するものであり、その地に住み続けることも許されないという悲惨な結果をもたらすものでした。地域住民や自治体が主役でなく、地域資源に根ざさない発展は、みせかけの一時的なものに過ぎなかったのです。

 日本は、今こそ持続可能な温暖化防止・エネルギー政策を選択しなければなりません。それは、住民や自治体などの地域主体の取り組みによる地域資源を活用した省エネや再生可能エネルギー普及を重視する政策です。本書でも例示してきたように、住民や自治体などの地域主体の積極的な姿勢をいかに引き出していくか、という視点が決定的に重要です。特に、再生可能エネルギー資源は、なんらかの形態でどこにでも存在する地域資源であり、それを利用するのは住民や自治体などの地域主体が最も適しています。しかも、日本にはあらゆる種類の再生可能エネルギー資源が豊富に存在します。地域主体が中心になって取り組めば、普及が促進され、そのことによって関連産業が発展し、新たな雇用を創出でき、導入によって得られる利益を地域に還元することで、地域社会は自立的に発展し続けることができます。

 日本の食糧自給率は40%前後と諸外国に比して低いのですが、エネルギー自給率は約4%と食糧のさらに10分の1という低さです。温暖化対策を推進しつつ、食糧やエネルギーの自給率を高めるには、再生可能エネルギー普及は極めて有効です。再生可能エネルギー普及によって、地球温暖化防止と農村地域の活性化を同時に達成できることを諸外国の事例は示しています。諸外国で温暖化対策や再生可能エネルギー普及が進む地方の農村地域は、これまでにみられなかったエネルギー供給地として新たに発展しつつあります。

 中長期的な温室効果ガスの大幅削減目標を掲げ、原発に依存せずに、それを達成する有効な政策として、再生可能エネルギーの電力買取補償制度(Feed in Tariff)、熱・燃料利用促進制度、炭素税の導入などを実施すれば、国民の安全を守りつつ、将来性ある産業を発展させ、過疎化する農村地域を蘇生させることは十分に可能です。これまでの日本では、そのような政策が乏しいなかでも、市民や自治体などの地域主体の努力によって、本書で示したような地域でかなりの成果をあげてきました。今後、有効な政策を実現すれば、日本のあらゆる地域で持続可能な地域づくりが一気に進むでしょう。また、それは、未来世代が健全に生き続けることを可能にする持続可能な社会への発展にもつながります。

 本書が、日本の温暖化防止や新しい未来づくりのために役立てば幸いです。

 最後に、本書の執筆に関わる調査に際して、各地で温暖化対策・地域づくりに取り組んでおられる多くの方々にご協力いただきました。また、本書の出版に際して、学芸出版社編集部の宮本裕美さんには一方ならぬご尽力をいただきました。ここに記して、感謝の意を表します。
2011年6月 和田 武 

本書執筆にあたっての調査等は、日立環境財団「環境NPO助成」(2008年)ならびに龍谷大学地域人材・公共政策開発システムオープン・リサーチ・センター(LORC)の委託(2008〜2009年)を受けて実施したのものです。