参加と協働のデザイン
NPO・行政・企業の役割を再考する

はじめに

本書の位置づけ
  1997年に人材養成の中間支援組織として「NPO研修・情報センター」を筆者が設立した当初から、「つぶやきを形に、思いを仕組みに」を実現できる参加協働型社会とその中核となる人材、「協働コーディネーター」の養成に取り組んできた。
 その中心となる理論として「参加のデザイン」と「協働のデザイン」を筆者のオリジナルとして構築、その成果を『市民参加のデザイン』(ぎょうせい、1999)、『協働のデザイン』(学芸出版社、2001)として社会に問うてきた。
 いずれの本も重版をかさね、全国各地のNPO支援センターや行政、NPO、参加や協働のテーマに関係する研究者や学生、一般市民の方々に読まれ、大きな反響を得ることができた。
 2冊の本を出してから早10年が経過したのを機に参加協働型市民社会を構築していくうえで必要な参加と協働のデザインの理論を再整理し、実践事例を加筆し、昨今の協働の様々な歪みをただす羅針盤となることを願って上梓させていただいたのが本書である。
 
本書の構成と概要
  本書は4部構成になっている。
 1部では参加協働型市民社会を構築していくうえで必要な参加と協働のデザインの理論を再整理した。「参加と協働のデザイン」は知識を教え込む教育方法ではなく、自ら学び、考え、自発的に問題を発見し、主体的に課題を設定し、判断し、よりよく問題や課題を解決する参加体験型の学習方法で、私自身がこの15年くらいの間に創造してきた理論と実践の体系である。
 筆者が代表理事をしている(特非)NPO研修・情報センターでは「参加と協働のデザイン」を学び、その成果を生かして、「協働コーディネーター」として実践できる人材を養成するために、この10年にわたって主に東京と京都等で年に数回『協働コーディネーター養成講座』初級と中級を自主事業として実施してきた。
 2部、3部では、その講座に参加され、各地で多様な参加と協働の実践を行い、成果をあげてこられた方々に事例を中心に書いていただいた。各事例はこの10年間の『協働コーディネーター養成講座』の参加者と筆者の協働の成果でもある。
 まず2部は協働の実践報告である。それぞれに参加と協働のデザインの理論を現場で実現した成果で、筆者自身が参加し、協力してきたプロジェクトがほとんどだ。担い手となった方々自身のレポートは読み応えのあるものとなっていると思う。
  1章  地元と行政のやる気が共鳴したまちづくり
     〜姫路市別所町の道路拡幅と公園づくり〜
  2章  公的資金の活用と市民参加による共に支えあう地域づくり
     〜釧路・わたぼうしの家の活動から〜
  3章  大学と自治体・地域連携による能登の再生ビジョン
     〜金沢大学・能登里山マイスターの挑戦〜
  4章  生産者・加工メーカー・消費者をつなぐ共感マーケティング
     〜遠州の地元ネタをコミュニティビジネスに〜
 3部では、NPOの行政の下請け化も懸念されているなかで、協働のあり方をいかに変革していくか、その具体論を、横浜および英国の事例を元に書いていただいた。
  1章  対等なパートナーシップに基づく「協働契約」のあり方
     〜横浜市の協働の実態と課題〜
  2章  NPOの下請け化を克服する政府との対等な協約
     〜英国のコンパクトと地域戦略パートナーシップ〜
 本書の最後には第4部として「参加と協働のデザイン」を支える哲学をNPO公共哲学と銘打ち、公共哲学の専門家の金泰昌(キム・テチャン)さんとの対話をまとめた。2007年からNPO公共哲学研究会を立ち上げ、議論や対話をしてきたもので、これから参加協働型社会を構想し、実現していくための根源としようとしているものである。
 公共哲学の真髄は対話である。「公共哲学とは」を対話形式として「ですます調」で書いたゆえんでもある。

 本書をきっかけに参加協働型市民社会形成にむけて多元的に、多様な対話が広がっていくことを切に望みます。
2009年秋 世古一穂