森本信明と前田享宏が、近畿大学理工学部建築学科の住環境計画研究室において共同研究を開始したのは、2000年4月からである。森本が1998年末に、『賃貸住宅政策と借地借家法』(ドメス出版・2001年日本建築学会論文賞)を出版した後、東大阪市等に多くみられる戸建持家の問題へとテーマ展開を考えていた時期にあたっている。
ちょうどその頃、近畿大学理工学部でとりくまれたオープンリサーチプロジェクトとよばれる大型研究に参加することになった。その研究の中で住宅計画学の分野ではめずらしい実大実験を行なう機会にめぐまれた。
実験用地を近畿大学から借用する手続きにはじまり、実験住宅の設計から大規模リフォーム、解体実験まで、時間は飛ぶように経過した。この研究を通じて、実に多くのことを学ぶことができた。とりわけ理念的に主張してきた『まちなか戸建』のイメージを具体化するうえで、何がポイントになるのかについて考えることができたことは幸いであった。
本書はこの実験的な研究の成果を核として、森本・前田が発表してきた研究論文や論説をもとにとりまとめたものである。とはいえそれらの論文・論説を単に並べたものではない。統計データを新しいものに差し替え、社会情勢の変化の中で適切でなくなった内容については大幅に削除し、加筆と修正を行った。
出版にさいして学芸出版社の前田裕資氏には実に丁寧に目を通していただいた。4部編成とすること、各章の内容として不足していること、論旨が鮮明でない箇所の指摘等、的確なコメントをいただいたおかげで、本書のまとまりがずいぶん良くなった。この場を借りて、深く感謝の意をささげたい。
最後に住環境計画研究室の学生諸君には、淡路島の合宿にて実験住宅の看板となる瓦の製作をはじめた段階から、各種住宅の解体作業、建築物廃棄物の追跡、大規模リフォーム、実験住宅の解体記録、八尾市や東大阪市の地域ビルダーや居住者調査に参加してもらった。本書を世に出すことで、少しでもそれらの努力に報いることができれば幸いである。
2008年9月 |
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