「ミニ戸建」あるいは「ミニ開発」というキーワードを聞いて、住宅が建て詰まった密集地、防災面での危険性、無秩序な住宅地、緑の少なさ等、住宅や住宅地に対するマイナスのイメージを抱く人は多いのではなかろうか。
その裏には、都心ならびにその近傍では大規模な再開発等を通じてオープンスペースを十分に確保しつつ高層・高密化を推し進め、郊外部では計画的な戸建住宅団地を供給することにより、めりはりのきいた都市住宅地を計画していくことが、わが国のめざすべき方向であるという暗黙の了解がある。都市計画や住宅計画あるいは建築計画は、それをもとに語られ、社会制度的にもそれを支え、推進する仕組みが用意されてきた。
ところが戦後60年以上も経った現時点で、わが国の大都市における住宅地の実態を見ると、郊外において良好な戸建住宅地として持続的に居住されているところは少なく、また都心とその近傍において高層住宅の大量供給が進んできたものの、都市型住宅地として評価しうるものは極めて少ない。
このような現状をふまえ、ミニ戸建の発展上にある「まちなか戸建」を核とした低中層の都市型住宅地像を模索し、提案したものが本書である。
本書の特徴の第1は、戦後における持家化社会の肯定的評価にたっていることである。戦前の大都市部では幅広い階層に対応した借家が供給されていたことから、戦後における持家化社会は、何らかの政策上の歪みからもたらされたものであると考えている人も多い。これに対して本書では、現在の持家化社会は経済の歴史的な発展段階に照応したものであるという認識から出発している。
第2の特徴は、持家化社会においては、共同建よりも戸建が有利であるという立場にたっていることである。いわゆる庭付き郊外戸建ばかりではなく、都心近くにおいて人々が戸建持家を選択しても何らおかしくはない。「ミニ戸建」として社会的に注目を集めているのは、このような都心近くで供給されている戸建住宅で、敷地規模が小さく、オープンスペースがほとんど確保できないような住宅である。
第3の特徴は、「ミニ戸建」に含まれるさまざまな問題点を整理し、それぞれの解決の方向を提示していることである。本書ではそれらの問題を「住宅の性能」「供給主体」「まちなみ形成」という大きく3つの分野に整理してとりまとめている。
「住宅の性能」の問題としては、構造、防火、採光、通風、前面空地利用、屋上利用、垂直方向の移動、リフォーム性能等があげられる。これらの問題を克服しうる可能性について、近畿大学で実施した実験住宅の研究成果を利用してとりまとめている。また住宅の寿命やリサイクルにかかわる問題として解体性能の向上が重要であると考え、それについての実験的な研究成果についても、わかりやすく紹介した。
「供給主体」の問題では、近年における「地域ビルダー」の成長に着目している。「地域ビルダー」とは、全国規模で活動する住宅メーカーとは異なり、一定の活動圏域の中で年間数十戸から数百戸の住宅を注文や建売によって供給している業者のことである。このような地域ビルダーが持続的に活動してゆける可能性はどこにあるのか、最近供給されている住宅の特性はどのようなものかについて、各種統計書ならびに業者調査の分析をもとに描き出している。
「まちなみ形成」の問題は、小規模な戸建住宅を中心とした都市型住宅地を考えていく場合、もっとも難しい問題である。これについては、居住者が都市における「住み方」と「まちなみ形成」とをどのようにバランスをとっていくことができるかという点が重要である。建築・住宅行政は、それらの要求と生活実態を的確につかみ、あたらしい都市型住宅地像を受け止める制度的な枠組みをつくっていく必要がある。
本書で提言されている内容は、今後20年、30年という長い時間の中で豊富化され、検証されていくものと考えている。それゆえ都市計画行政や住宅行政に携わっている公務員やコンサルタントの方々だけではなく、都市住宅の供給にたずさわっている住宅メーカー、地域ビルダー、設計事務所で働いておられる方々、さらには大学で教育にあたっている先生や学生・院生の方々に、ぜひ読んでいただき、議論と実践に参加していただくことを期待している。
森本信明・前田亨宏
|