仮設市街地の言葉が生まれて13年有余。ようやく、それが本の形になりました。阪神・淡路大震災の直後に生まれたその言葉は、その2年後の東京都の都市復興マニュアルに仮の居場所を得て、次第にその活動の場を広げ、時限的市街地という兄弟を生み出しながら、海外にまで広がる勢いをみせはじめています。
しかしながら、行政的には東京都ならびにいくつかの都内の特別区で、震災復興マニュアル等でその言葉を取り上げてもらっているという、ごく限られた地域での定着に留まっているのが正直なところです。地震の到来が危惧されている首都圏域、東海、南海・東南海の圏域全体に、あるいは全国にその考え方が普及していくことを私たちは願っており、第6章で述べたように、国にも、まともにこの問題に取り組んでもらいたい。さらには、日本発の災害文化のひとつとしていきたいと考えています。
戦前・戦中生まれなど年配の方は、戦災都市で戦後、多くのバラックが建てられていた記憶を留めておられることでしょう。
現在においても、世界中の戦乱や自然災害を蒙った地域では、テントなどによる難民キャンプがつくられています。
これらの事例では、「仮」と「常」の区分が不分明になるような事態が生まれてきたことも事実です。「仮」と「常」の峻別をどう図るかは、研究会の次なる課題としたいと考えています。
この本では言及できませんでしたが、いまひとつ気になることがあります。阪神・淡路大震災から中越沖地震まで幾多の地震があり、阪神・淡路大震災よりも中越地震、中越沖地震と、仮設住宅にも住宅性能に関する仕様や配置の考え方に改善や発展が見られてきているとは思いますが、第1章でも記したように一定期間といえども、特に高齢者にとっては人生の貴重な時間を過ごす受け皿なので、仮設住宅の性能水準の向上が必要なのではないかと考えています。これも課題にしたいと思います。
この本を生み出す直接のきっかけを私たちに与えてくれたのは、阪神・淡路大震災でのそれぞれのメンバーの見聞、立川の昭和記念公園での「震災サバイバル・キャンプ・イン'99」の実践、ならびに文部科学省の「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(2002年〜2006年)」で共同研究の機会を得たことです。それによって、国内外の被災地を訪問する機会や、多くの方々と議論をする公開研究会の場をもつことができ、仮設市街地のあれこれを広く、深く議論することができました。公開研究会は、2005年度にテーマを改めて4回、2006年度には総括シンポジウムの形で実施しました。
また、この「特別プロジェクト」と並行して実施した都内各地での復興模擬訓練に参加する機会を得て、多くの住民や、行政関係者、専門家と膝詰めのワークショップを行なうことができました。
私たちは、そうした経験から得た知見や、議論によってようやく1冊の本にまとめることができました。
公開研究会でパネラーとして仮設市街地研究に貴重なアドバイスをいただいた方、国内外の被災地調査に便宜を図っていただき、貴重な情報提供をいただいた方、被災自治体の状況を教示いただいた兵庫県、神戸市、長岡市などの自治体の方、被災地の復興状況を教示いただいた学者および都市プランナーの方、研究・成果への問題指摘をいただいた神戸市役所の有志の方、サバイバル・キャンプや復興模擬訓練に参加し、われわれと意見交換をしていただいた方、復興模擬訓練を応援していただいた神戸のまちづくり関係者、災害復興まちづくり支援機構の方、仮設市街地研究会に復興模擬訓練参加の機会を与えていただいた東京都、墨田区、足立区、世田谷区、目黒区、東京都防災・建築まちづくりセンターの方など、多くの方々にお世話になりました。これらの方々に改めて感謝を申し上げます。そして、仮設市街地研究会のメンバーとしてともに研究を担いながら、夭折された二宮和弘さんに哀悼と感謝を捧げます。
最後に、近々襲ってくると言われている大災害に対して、都市と地域社会をたくましく、柔軟に復興させていくことができるように、本書が少しでも役立つことを願います。
2008年5月
仮設市街地研究会
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