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地域ツーリズムの展望

おわりに

  いま北海道では、民間組織の北海道遺産構想協議会が中心となって、「北海道遺産構想」を進めている。「北海道遺産」とは、次世代へと引き継ぎたい有形・無形の財産のなかから、道民全体の宝物として選ばれたものだ。過去2回(2001年と2004年)の公募(応募総数2万5千件)を経て、現在52件が選定されている。
  選ばれたのは、有名観光地だけではない。地域が熱心に保全・活用に取り組んでいるものや、今後の取り組みに期待できるものなどが多く選定されている。具体的には、「摩周湖」弟子屈町(てしかがちょう)、「登別温泉地獄谷」(登別市)、「北海道のラーメン」(道内各地)など全国区のものから、「路面電車」(函館市、札幌市)、「旭橋」(旭川市)、「江別のれんが」(江別市)、「アイヌ語地名」(道内各地)などまで、その顔ぶれは実に多彩だ。本書(第13章)で取り上げた「昭和新山国際雪合戦」(壮瞥町)も、その一つに選ばれている。
  「北海道遺産構想」は、この「北海道遺産」を地域で守り、育て、活用するなかから、新しい魅力を持った北海道を創造していく道民運動である。狙いは、@地域づくり・人づくり、A地域への愛着と誇りの醸成、B観光等による地域経済の活性化にある。
  このような活動が、いま全国の多くの地域で始まっている。日本は、これから本格的な成熟化社会を迎える。旅行市場は、家族や個人が中心となり、目的志向やテーマ性のある高付加価値型の旅へと大きくシフトしている。観光市場のグローバル化も急速に進み、今やライバルは海外の観光地である。
  これらに対応するためには、眠れる地域資源に光を当て、その土地ならではの魅力を創造していくという、地域側からの視点が極めて重要となってくる。この点で、地域を基盤とし、地域づくりと密接に連携する着地型の「地域ツーリズム」が、今後の旅行市場を牽引していくことは間違いないだろう。
  本書では、現在、全国各地で取り組まれている「地域ツーリズム」の先進的な事例を、数多く取り上げた。このなかで、読者が一ヵ所でも「現地を訪れてみたい」と思われたならば、本書の目的は半ば達成されたと言える。さらに一歩進んで、魅力ある地域づくりや、それを活用した地域ツーリズムの構築へと行動を起こされたならば、筆者として、これに勝る喜びはない。

 本書の執筆に際しては、全国各地で観光振興や地域づくりの第一線で活躍される、多くの人たちから協力を頂いた。特に、事例研究に当たっては、現地調査や資料収集などで多大なお世話になった。記して感謝したい。
  また長年にわたり、ご指導頂いた菱山泉先生(京都大学名誉教授、鹿児島国際大学前学長)が、本書刊行を前に亡くなられた。暖かな風貌と、その時々の励ましが、今も筆者の大きな心の支えとなっている。
  最後に、学芸出版社の前田裕資氏と小丸和恵さんには、本書の企画段階から出版まで一方ならぬお世話になった。心よりお礼申し上げたい。

                                         2008年1月
                                             佐々木一成