学校開放でまち育て

サスティナブルタウンをめざして

はじめに

 ニッポンには義務教育制度がある。その是非は、だれも疑問に思っていないであろう。そして、この制度は、子どものための制度とほとんどの人が考えているのではないか。
  しかし私は、義務教育、とりわけどこにでもある公立の小学校が本来的に持つ「学ぶ」機能と「施設」の機能を校区の住民と協働・共有できるように改革し、同時に今は薄れつつある地縁とも血縁とも一味違う、子どもを介した地域の大人同士をつなぐ考え方の「子縁(こえん)」を活かしたまち育てを推進することにより、いまニッポンが直面するさまざまな課題──例えば少子高齢化によるまちの衰退、核家族化による子育て子育ち不安、開かれた学校を目指す一方での学校やまちの安全問題など──を緩和ないし解決しうるのではないかと考えるのである。
  そして、そのような課題の解決に挑む実験を行っている地域と小学校がある。本書の主舞台であり私が居住する千葉県習志野市の秋津地区と、同地区の市立秋津小学校である。
  秋津地区で行ってきた特に大きな特長は、次のようなことである。
  「秋津コミュニティ」と称する秋津小学校内に事務局を置き、校区の全住民と校区で働く人々を対象にして生涯学習を推進する任意団体があること。この団体は、生涯学習のさまざまなサークルの立ち上げを援助しながら各種の事業を開発し自主的に楽しく活動しているが、同時に秋津小学校の子どもたちが「学ぶ」ことを大人が協働するようにコーディネートもしている。その前身は1992年に発足した「秋津地域生涯学習連絡協議会」であり、その時代から今日まで15年も活動を続けている。
  また、秋津コミュニティのサークルの活動や、だれでもが集い憩い学べる拠点としての「秋津小学校コミュニティルーム」と称する小学校一階の余裕教室四つ・校庭の余裕花壇・陶芸窯の三つの「施設」を地域に開放し、鍵も住民自治の理念から預かり管理運営していること。
  そしてこれらの活動の主な推進役は、何にでもすぐに乗りまくることから「ノリノリ団」と呼ばれている成人男性であることもユニークな特長であろうか。
  そのノリノリ団のひとりであるシルバー世代のS氏から、昨日こんなメールが秋津の仲間たちに流れた。表題は、この数日間役員間を飛び交う「年末の秋津小学校コミュニティルームの大掃除」。

 12月29日(土)の大掃除は参加させていただきます。
  ところで私の考えなのですが、当日はガラス窓とトイレのお掃除を徹底的にやりたいと思います。そして、毎回行っている床面の洗浄ワックスがけは、この日はやめて人のいないときに行いたいと考えております。後日(1月1日〜3日までの日程)にやらせていただきます。
  床面については、任せてください。出来ればその3日間、ワックスを乾かすためにコミュニティルームは休館日にしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか?

 コミュニティルームの毎年末の大掃除は、さまざまなサークルの仲間が自主的に参画して行っている(もちろん無償でね)が、今年のS氏は特に力が入っているようである。S氏は、秋津小学校4年生に国語の授業で落語を教えている。また秋津コミュニティの地域劇団蚊帳(かや)の海一座の、この12月に16回目を迎えた定期公演に役者として出演し、気を良くしているのだろう。そんな地域の仲間の積極性と心づかいを、私はとてもうれしく思う。

 さて、秋津地区は、27年前に東京湾の埋立地に誕生した中層団地が多数を占めるニュータウン。しかし「トキ=年数」の経過により住民は高齢化し、集合住宅もいずれ建て替えの時期がやって来る。
  本書は、小学校と地域が持つ三つの機能を活かしながら地域の諸課題の解決に挑みつつ、住民自治を進化・深化させている秋津のまち育てを紹介する。また、そんな「まちの価値」を慕ってUターン・Iターンする次世代を意図的に育てることによりニュータウンのゴースト化を防ぎ、サスティナブルタウンをめざす「スクール・コミュニティ」づくりを展望するものである。

岸 裕司