路面公共交通の主力であった路面電車は、1960年代まで都市のスケールと市民生活のスタイルに合っていた。しかし、1970年代以降は都市のスケールが拡大し、市民生活スタイルの多様化により、路面電車はまちに合わなくなってきた。だから、棄てたとみるべきで、たとえ、都市のスケールに合っていても、市民生活のスタイルに必ずしも合っていないのではないか。だから、利用されない交通機関になってしまった。現在、残っている路面電車もネットワークが維持されている広島と長崎及び松山の3市の路面電車は比較的活用されているが、これ以外は、輸送機関としてはバスで十分なレベルにある。
今後、市街地は縮退していくとされるが、市民生活のなかで路面公共交通が、本当に必要かどうかよく考えてみなければならない。市民の多くは、自動車利用が生活のなかに組み込まれ、都市近郊の一戸建住宅等に住み、買物は自動車で大規模小売店舗へという「アメリカ型」の生活を享受しつづけてきた。こうした生活スタイルから「生活になくてはならない都市の装置として、歩道に最も近い交通システムであるLRTやBRTを整備して、公共交通を主体とした歩いて暮らせるまちを目指す」には、ヨーロッパ型の都市構造や生活スタイルに変えていく、長期にわたる取組が必要となる。
本書は、路面公共交通を活用したまちづくりに取組む関係者の方々に、事例を中心に路面公共交通の現状を紹介した。今後、集約型まちづくりをめざすうえで、必要不可欠な路面公共交通をまちに組み入れていく際の参考にしていただければ幸いである。
最後に、下記の方々に写真や資料の提供を頂きました。末筆ながら厚くお礼申し上げます。また、松山市都市整備総合交通課、高岡市生活環境部地域安全課、岡山市都市整備局都市開発部交通政策課、金沢市政策局交通政策課、及び富山市都市整備部交通政策課からは指導・助言をいただきました。ご担当者と発行元の学芸出版社・編集部の村田讓氏にはご苦労をおかけしました。重ねてお礼申し上げます。
〈本文の写真・資料提供者(順不同、敬称略)〉
石井朋紀、伊藤達也、今村泰典、内山知之、梨森武志、西村一夫、細井敏幸、藤元秀樹、室哲雄
2006年12月 筆者 |