コンバージョン、SOHOによる地域再生


書 評
『地域開発』((財)日本地域開発センター)2006.10
 依然として都市の空洞化問題が深刻である。特に都心に大規模なオフィスビルの供給が増えたことで、中小ビルが密集する既成市街地ではビル空室率が上昇している。こうした地域では一般的にイメージされるような大規模開発による都市再生は難しく、都市再生というよりは「地域再生」とも呼ぶべき小さな規模での新機能の進出や地域経済の活性化による都市づくりの推進が望まれている。同時に、ビルを住居など様々な用途に転用するコンバージョン(用途変換)が活発になってきており、なかでも「SOHOへのコンバージョン」は地域再生策として注目を浴びている。
 本書ではそうした地域再生策の先進事例である神田・秋葉原地域、大阪船場地域での官民共同による手法を紹介、そしてSOHOとコンバージョンを地域再生に結びつける仕組みと今後の課題と可能性について専門家や実務者がそれぞれの視点から解説する。新しい時代の都市づくりを示唆する一冊である。

『建築士』((社)日本建築士会連合会)2006.7
 ITバブルの本格化と同時進行的に大規模都市開発が東京各地で行われ注目を浴びているが、どちらも本質的な日本の諸問題や変革に対する解ではない。その一方、東京に限らず日本各地で都市の空洞化が発生し中小ビルの空き室増加や、それに伴う地域の衰退が問題となっている。重要なのは一部の大型ビルの建て直しではなく、今ある大多数の中小ビルをいかに活性化して新しい時代に適応させていくかである。
 本書ではその解決策としてITを中心としたSOHOを核に、中小ビルをコンバージョン(転換)して価値を高めると同時に地域を再生する方法を、東京神田、大阪船場の例を紹介しながら解説している。コンバージョンを成功させるために一番重要なのは、それをプロデュースし対価も得るという「家守」の存在である。建築をハードウェアだけではなく、それをどう利用するかというソフトウェアとして家守をおき、建築を新しい時代へ再構築するという手法はまさしく21世紀型の解決策である。しかし、大きなリスクを背負わずにビジネスとしてコンバージョンができる環境と人材を整えなければならない点や、それらを利用するSOHO人口、支援環境が整わなければ事業として成り立たない点等はこれからの課題として残っている。
 問題はあるものの、安易な建て直しや開発といった対処療法的なハードウェアの再構築より、地域のあり方や建物の使われ方といったソフトウェアを重視するコンバージョンという手法は魅力的であり、建築界全体にも反映させていくべき概念だといえる。
(千頭輝雄)

『地方自治職員研修』(公職研)2006.2
都市空洞化解消の一手法
  空室が増え続ける中小ビルが密集する既成市街地を中心に起こる都市の空洞化問題。大規模開発による都市再生や、これからの日本経済を支えると期待される新産業のうち、バイオテクノロジーなど知的資源や資本が必要とされる産業誘致では、この問題は解決しえない。ひらめきが勝負のIT産業等が利用しやすいSOHOにビルをコンバージョン(転換)し、同時にSOHOが相互に連携する仕組みづくりが必要となる。本書は、東京秋葉原、大阪船場の官民協働による地域再生の手法を紹介する。

『建設通信新聞』 2006.3.2
中小ビル空室活用へ 官民共同の取組み紹介
  都心に大規模なオフィスビルの供給が増え、中小のビル空室率が上昇している。こうした中小ビルが密集する既成市街地は、たんなる都市再生策では救えない。一方、こうしたビルを住居などに転用するコンバージョン(用途変換)も活発になっている。
  本書は、建物用途の変換先をSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)として、IT(情報技術)産業などの新興企業向けに提案し、さらにオフィス同士を相互連携させるしくみづくりにも注目、神田・秋葉原、大阪船場の官民共同で進める地域再生手法などを交えて紹介する。
  内容は、先進事例を紹介する1部と、研究者や実務家がそれぞれ専門分野について解説する第2部の構成でまとめている。
  千代田区の例では、外神田の「リナックスカフェ」、神田錦町の「ちよだプラットフォームスクエア」などの例を取り上げ、大阪・船場では「南船場在宅ワーク型住宅」「アルファデジタルボックス南本町」などの個別プロジェクトを紹介する。
  第2部では、IT産業と地域再生、SOHOによるまちづくりとeネットワーク化、地域経済再生から見たSOHOコンバージョン、コンバージョンの建築的可能性と地域再生──という4つの視点から、今後の課題や展望を専門家が解説する。
  2004年2月に横浜で開催されたフォーラム「地域再生の実践─コンバージョン、SOHOをツールとして」の参加者を中心にまとめた。