英国の持続可能な地域づくり

パートナーシップとローカリゼーション

はじめに

 持続可能な地域づくりはどのように始まり、実現、発展していくのか。
  これは、地球サミットやヨハネスブルグサミットにおいて中心テーマとなった20世紀、21世紀の地球規模の課題であり、一つの簡単・明瞭な解があるわけではない。
  筆者は、1999年から2000年の2年間英国に滞在し、“持続可能な地域づくり”を探しに英国中を飛び回った。その過程で複数の興味深い活動に出会い、それらの活動の始まりから具体的な活動の展開にいたるまでの道筋を調査した。それぞれ多種多様な社会的及び経済的な背景のもと、活動が展開されているが、活動のプロセスにおける人々の関わり方、彼らが目指す取組みの方向性にある共通点を見出した。
  それは、行政、企業、市民グループそして一人一人の市民、それは、若者も年老いた者も子供も、男も女も、障害のある人、英国人ではない移民も含む市民等、社会を構成する様々な主体が活動の企画段階から実施、評価の段階にまで関わり、連携する“パートナーシップ”の仕組みであった。そしてもう一つは、地域の自然資源、知恵、技術などの人的資源、団結力・信頼関係などの社会資源等を発掘し、最大限に活用し、地域の中で循環させる“地域内資源循環型社会”を形作る、すなわち“ローカリゼーション”の活動であった。
  英国において、“パートナーシップ”は、特に、経済的・社会的に衰退していた地域を再生する活動の中で、実験され、発展してきた。「地域再生」という概念は、「地域における経済、社会、環境問題に総合的に対応する」という意味を持つ政策用語として、1970年代から使われるようになった。しかし、地域再生の実態は、試行錯誤の連続であった。政府の政策やそれに基づく地域での活動は、環境、経済、社会のいずれかの側面のみに着目したものとなりがちであった。また、政府、自治体、企業、市民等の間の対等な協力関係は築かれず、行政主導の活動が大半であった。しかし、30年を超える歴史の中で、住民主体の活動が始まり、地域の各主体の役割が認識されるようになった。また地域再生政策の評価が行われ、その中で、各主体の連携の重要性が強調された。このような過程を経て、各主体の連携と協働が試みられるようになった結果、地域の環境、経済、社会面を同時に向上させうる取組みが数多く生まれ始めたのである。現在、英国では「各主体の対等なパートナーシップ」が、持続可能な地域づくりを育て支える仕組みとして普及し始めたところである。
  地域の資源、知恵、技術を最大限に活用し、地域の中で循環させる“地域内資源循環”は、高度経済成長の中で世界的に普及した大量生産、大量消費、大量流通の経済活動により、各地域が失ったものである。日本でも、英国においても外発的な技術や画一的なものが地域に投入され、地域の自然、社会資源を生かした産業文化は衰退した。筆者は、英国に行く前、環境白書の執筆等の業務を通じ、我が国においては、人・もの・金を地域内で循環させていくことが持続可能な地域づくり成功の鍵ではないかと考えていた。そして、英国での、自然、人、地域経済を元気にする取組みにおいて、地域の中にある資源や知恵を見直し、それを生かし、育てる活動が、持続可能な地域づくりの中心的役割を果たしていることを見出したのである。この本では、「地域内の資源を地域内で活用する活動」を人・もの・金が世界規模に動くグローバリゼーションと対比してローカリゼーションと呼ぶこととしたい。

 筆者が英国で見てきたことは、英国の社会的、政治的特殊性という背景もあり、そのまま日本に応用できるとは限らない。しかし、筆者は、これらの地域づくりに関わる、行政、企業、市民や市民グループ側の人々の地域づくりに対する認識や熱意は、日本と変わらないと実感した。また、筆者は、物的な資源は、地域内で循環利用することが望ましいが、知恵、技術などはむしろグローバルに活用可能なのではないかと考えている。すなわち、英国における地域づくりに係る政策、知恵、技術、手法は、我が国においても活用可能であり、また、我が国の手法、技術も英国で有効たりうると考える。
  この本は、なるべく具体的な事例を紹介することにより、地域づくりの現場の息吹を伝えることを試みた。この本の読者に、日本における地域づくりに対する新たな視点やアイデアの提示、そして活動に対する鋭気を与えることができれば幸いである。