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マンション管理組合テキスト




はじめに



 マンションの暮らしが日本にはじまったのは高度成長期、一九六〇年代のまっただなか、世代は三十年で交代するといわれるから、マンションはいま新しいステージを迎えつつある。
 最初のステージは、建物の構造や居住組織のあり方など、ハード、ソフトともにいろいろな問題が生じた三十年であった。しかし管理組合は、試行錯誤を続けながら問題の解決に取り組んだ。そしてバブル経済と阪神大震災である。バブル経済ではマンションが「不動産価値」として乱高下し居住者の不安をあおった。阪神大震災では都市直下型の大震災がマンションの建物だけでなく居住者組織をも揺さぶった。マンション問題の「総仕上げ」とでもいうような事態である。余韻はまださめやらないが、これら人災と天災の厳しい試験を経て、マンションは共同社会としていっそう着実直実に成熟に向かっている。  マンションのマニュアルブックは、これまでずいぶんと出版されてきたが、本書はそれらのものとは内容を大きく異にしている。従来のマニュアルブックの多くが「トラブル相談」を内容としていた。もちろんそれらは、時代が求めたものであったことはいうまでもない。しかし、マンションが新たなステージを迎えるなかで求められるものは、マンションに内在する共同性を暮らしの豊かさに結びつける、積極的な考え方とその考え方に裏付けられた生活技術の提案である。本書は、資産保全活動からまちづくり運動へと、新たなステージに入ろうとしているマンション管理組合活動に応えるべく企図されたものである。
 本書は、京都と滋賀のマンション居住者とマンションに関わる専門家の共同事業の成果である。京都と滋賀のマンション管理組合の組織的活動は、一九八〇年代の初頭に京滋マンション管理対策協議会としてはじまる。その運動を支えた専門家を組織したのが住生活研究所である。阪神大震災において被災者を支援した市民の自発的活動が契機となって、いま市民活動推進に関る制度改革が国会で審議されている。協議会と研究所は、市民による自発的で非営利な活動を車の車輪のごとくに行ない、豊かなマンションづくりをリードしてきた。マンションのスラム化が問題になったころからすると、想像すらできないような多彩な活動が行なわれるようになっている。これらの活動は、管理組合内のコミュニティ活動に止まらず、企業や行政をも巻き込んだより前向きな事業の展開から、全国北は北海道から南は九州まで、管理組合のネットワークの構築に及んでいる。全国のマンション管理組合団体と専門家に呼びかけて、地震直後よりはじめられた被災マンションの支援活動は、現在も継続されている。私たちが描こうとしたのは、マンションに住むことが「縁」となって広がる市民の暮らしである。活動をとおして獲得されたものを一言で要約するなら「自治」である。本書は、この「自治」を基礎に組み立てられており、「マンションは小さい自治体」といった考え方が提案されている。そこには、共同することのなかに自分たちで切り開く暮らしの可能性のあることが示されている。
 マンションは成熟にともなって、ハードからソフト、建物としてのマンションから社会としてのマンションを切り盛りしていく力量が求められるようになっている。そのためには、新しいタイプの専門家の養成が急務となる。新しい専門家は、管理社会から派遣される従来の管理人とは違って、理事会の事務局の機能を担うような性格をもっている。いわばマンションの事務局長である。理事が会社勤めの片手間で管理組合の仕事をこなし一年か二年で交替していくようでは、専門的で継続性のある組織運営はできない。これからは、このような課題を担える人材が大切になってこよう。本書は、豊かなまちづくりを担う新しい専門家の養成に寄与することを狙っているが、成熟したコミュニティをめざす、より広範な居住者にとって、マンションを考える良いテキストになることが願いである。二十世紀も残すところあとわずか、時代は分権社会へ向かっている。マンションを築く共同社会は、新しい市民社会を切り開く可能性を秘めている。
 一九九六年四月
住生活研究所理事長 谷口浩司



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