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まもりやすい集合住宅


計画とリニューアルの処方箋




書 評


『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2001.11
 深刻な犯罪問題を抱える欧米では、集合住宅の環境設計による犯罪防止が広く行われている。特に高層住宅では街路が「目」から切り離され、人々による自発的な犯罪コントロールが働きにくくなってしまうことから、改善に向けて様々な取り組みが行われている。これまであまり集合住宅の犯罪問題は注目されてこなかった日本でも、近年では事情が変わってきている。
 本書は居住者の自主管理に基礎を置く地域コミュニティを形成し、それによっていかに犯罪を防止するかという問題を、オスカーニューマン著『まもりやすい住空間』の訳者が欧米の先進事例を通じて観察した結果をまとめたものである。原文は1989年から1991年にかけて雑誌「新住宅」に毎月連載されていたものであるが、10年前に書かれたという古さを感じさせない。取り上げられた共同住宅防犯改装の多様な事例は、安全・安心のまちづくりをすすめていく際に大いに参考となるであろう。


『住宅』((社)日本住宅協会) 2001.9
 著者の湯川利和先生(奈良女子大名誉教授)は、もう既にこの世にはいない。日本の社会が急激に犯罪多発型に変貌するなかで、先生の蓄積された知識と経験が、大いに期待される状況のなかで、1998年に多くの知人・友人、更には教え子達にあっけないお別れをしてしまった。
 本書は、本人によって書き留められていた原稿を元に、妻であり研究仲間でもある湯川聰子先生(九州女子大教授)が編集出版したものである。本人によって一つ一つ作りあげてきた作品を、妻によって組み立てられ着色された共同の成果品でもある。改めて、信じあい尊敬し合う研究仲間としての妻と共に、幸せな研究生活をおくられたであろう先生の生前が偲ばれる本でもある。
 湯川先生は、京大西山研究室をでられた。西山夘三先生(故人・京大名誉教授)は、多くの人材を生活空間学の研究・教育分野に送り出された。そのなかでも湯川先生は、研究の方法に固有の特徴をもつ、異才をはなつ存在であった。その存在には、西山先生自身も少なからぬ特別の期待をかけられていた。
 先生の研究の特徴は、日本の都市の行く末の地獄絵≠描くにしても、その対極としての極楽絵≠構想するにしても、欧米とりわけアメリカの都市の動向を強く意識していることである。日米安保条約の締結により、日本は政治・経済だけではなく、文化や国民生活の隅々まで無批判にアメリカがモデル化されて行く状況を早くから予見し、アメリカの現実から日本の将来を予想し、警鐘を鳴らしつつ別の途を構想し続けたといえる。その最初の成果が都市構造のモータリ化に関する一連の研究である。「マイカー亡国論」は今日でも十分に教訓的な著書である。

 本書に代表される都市犯罪の空間学的研究は、その第2弾といえよう。本書を一読して、最も強烈な印象を受けるのは公営高層住宅における犯罪の激増とそれによる荒廃の過程である。プルーイット・アイゴウ団地の全面爆破撤去に象徴される荒廃の過程は、その一つ一つが現在の日本の都市に顕在化しつつある問題だけに、衝撃的であり、読者を引きつけて離さない迫力がある。紙面の多くは、その後のまもりやすい集合住宅≠ノ向けた修復・改善の典型的な事例を紹介しつつ、適切なコメントが展開されている。このなかで特に教訓的なのは、「私」から「公」に至る空間の段階的構成の重要性の指摘である。私的空間からセミパブリックな空間を幾つか重ねながら、公的空間に至る空間構成が防犯のまちづくりの視点からも極めて有効であるとする指摘は、日本の現実からみても十分に説得力をもつものである。
 先生も、生活学派と称せされた西山先生の教え子である。空間だけではなく、コミュニティーをもう一つの安全対策の重要な柱にすえている。この点でも幾つかの重要な指摘がみられるが、特に注目されたのは、小さい単位としての同一性のコミュニティーとそれらの複合した大きい単位としての異質なコミュニティーの混在という指摘である。この妥当性には、日本というフィールドで、もう少し具体的な検討が必要とされている課題でもある。
 この他にも高層住宅の設計・管理に当ってのチェックポイントが30項目にまとめて提言されている。集合住宅の設計家としてスタートした先生らしい具体的で細やかな指摘であり、大いに参考になる。多くの人々に一読をすすめたい著書である。

(千葉大学園芸学部教授 中村 攻)



『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2001.8
 本書は、オスカー・ニューマンの『まもりやすい住空間─都市設計による犯罪防止』を翻訳し、『不安な高層 安心な高層─犯罪空間学序説』を著した故湯川利和氏によるシリーズ第三弾といえるものである。
 アメリカ・イギリス・オランダ・カナダの住宅地の例を紹介しながら終章には高層住宅のチェックポイントが記されている。
 アメリカの例では「自動車に依存する郊外居住の行き詰まり」「公営高層住宅の荒廃」「高層住宅建設の反省」「成功した高齢者向けリニューアル」「新世代マンションその1その2」「防犯デザインの限界」、イギリスの例では「幼児のいる家族を高層住宅から転居させる」「ワーデンのいる高齢者住宅へ 公営住宅の転換」、オランダの例では「ル・コルビジェのアントワープ計画:実現と失敗」「ボンネルフのあるコンパクトシティ」、カナダの例では「研究成果からヒューマン設計へ」が紹介されている。
 「集合住宅を愛し、防犯の観点から、子どもを育てる観点から、高齢者がくらす観点から」紹介されているのがよく分かる。都市での犯罪、住宅地での犯罪、高層住宅での犯罪が増える中で犯罪をどう考え、どう防ぐのだろうかと考える時のヒントになると思う。
 新築時の設計でも考えるべきだが既存の住宅でも犯罪を減らすために、必要な住みやすくするための改良、守りやすくするための改良もすすめている。オートロックだけが防犯といわれることが多い中で、「それだけではない」との考えも読みとれる。
 パブリック・セミパブリック・セミプライベート・プライベートという公的エリアから私的エリアまでの段階構成の分類は、犯罪を防ぐ設計をしていく上で大変役立つに違いない。
(千)


『新建築住宅特集』(叶V建築社) 2001.8
 都市に住むということは、犯罪などに遭遇する危険と常に隣り合わせといえる。日本でもピッキングの被害が増加している。たとえばル・コルビュジエが提唱し、近代都市の理想とされた高層住宅は「住まい」として最適な解だったのだろうか。本書は、コルビュジエの集合住宅の例をはじめとして欧米の集合住宅や住宅地一般のデザイン計画、リニューアルおよび管理方針に即効的な防犯効果をあげる実例を紹介している。「自然的監視」「領域性」といったデザイン上の工夫と、住民参加も含めた「おらが町」意識の高揚、コミュニティの強化の重要性が明らかにされている。住まいをつくるということは、安全を設計することであると痛感させられる。


『建設通信新聞』(日刊建設通信新聞社) 2001.7.11
 「まもるもの」は居住者の安全であり、その居住者の中でも、とくに子どもである。そのための集合住宅の防犯設計の在り方を、米国や英国、オランダなどの実例を引きながら提唱する。
 同書は第2章で「公営高層住宅の荒廃」と題して、米セントルイス市のプルーイット・アイゴウをあげる。ここは当時、理想の高層団地と思われたのだが、入居開始時から空き室率が20%を下回ったことがないという。その理由は犯罪が後を絶たなかったからだ。屋内に設置された共同ランドリーが犯罪の温床となったと指摘する。
 どこからも見られることなく、しかも出入り自由という状況が犯罪を生み、最後には犯罪者が白昼堂々と屋内廊下を歩き回り、居残っている住民が見つかれば、ドアを蹴破って侵入し、金品を強奪するという事態に至った。このことは、建築家が高層環境の防犯性を見逃したためだと論じる。そうした事態を招かない高層集合住宅をつくるには、自然的監視と領域性といったデザイン上の工夫が必要なのだと説き、最後に30のチェックポイントを提案する。




本書によせて
解題
もくじ
著者紹介



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