建築一つだけじゃ置物ですよ。 こんなものは置いたところで何にもならないんだけどね。 何かなるから家をつくるんだ。 人間がいないと、 そして人間でなければ神がいないと、 仏がいないと、 そういう人や神仏のための家ですよ。 人間は動物ですよ。 動くものですよ。 動かないものは植物ですから。 それで動くもののために造るのが家ですよ。 動物ならあちこち歩く。 家もそのためのものですよ。 動物なら頭があるから歩くにしても考えながら歩いている。 犬でも、 猫でも蟻でも。
私は東大で毎日のように見ておりましたけれど、 蟻が校内の道を列をなして歩いている。 ところが生意気にまわり道をしないで、 ちゃんと近道を心得て歩いているんですよ。 蟻でさえもそういう立派な道をつくっております。 ましてや、 人間には、 古いふるい何万年っていう昔から自分たちに都合のよい道があるわけです。
一人で暮らしてはいられません。 家をつくり、 そして集落をつくる。 また他の方にも集落ができる。 と、 その間が道でつながる。 動物でいえばカモシカの道でございます。 人間なら乗り物があるとたいへん具合がいいから、 乗り物ができる。 そしてどんどん発達していく。
何のためかっていうと、 お互いに物を交換する、 あるいはお互いに付き合いをする。 嫁取り、 婿取りもやる。 そういう類と、 もう一つは戦争ですわ。 戦争のために。 どうせ人間なんてのは心のなかが卑しいですからね。 何でも欲があれば取ろうとするんです。 だからそういうことになります。 そういうために道があるんです。 それが昨年出した『中山道』の最初の所に書いてある。
集落と道
このページへのご意見は前田裕資へ
(C) 文京の歴史・文化研究会