あとがき
■延藤安弘(序章、7章担当)
 この本づくりは、まるで参加のデザインの現場のように、ゆるやかさがそのまま緊張感に変わるような中間地帯・境界領域に身をおいている心地よさを感じた。  やわらかい生命につつまれているようなゆるやかさと、未体験ゾーンに放り出されていくような緊張感の両面がほどよくバランスする時、偶発的な恵みという意味に出会える即興的な場が生成する。

■林 泰義(1章担当)
 ひとり一人の思いが対話とワークショップから小さな公へと育ち、「意味のデザイン」へとメタモルフォーズする過程。一冊の書物へと編集していくプロセスそのものが、意味のデザインである、という体験。意味のデザインは、広がりのある公へと蝶のように飛び立っていく。その飛びかたは、あの蝶の軌跡が、まるで不連続の連続であるように予測しがたい。未来というほど遠いことではないのに。

■乾 亨(2章担当)
 各事例に関わった当事者の語りをもとに、建築からまち育てまで自由に議論しながら緩やかに重なるところを求める協働作業はとてつもなく刺激的でした。「一人ひとりにとって居心地のいい場をつくろやないか」……この本は、そんな想いの響きあいと現実を変革するための応用力の集積だと思っています。

■北原啓司(3章担当)
 メンバーとの議論の心地よさに半ば意識的に酔いしれる数年の間に、「まちづくり」の時代は「まち育て」にシフトし、意味の変換を期待する場面が都市のストックの中に浮かび上がってきている。そして、あちこちで「新しい公共性」が問われ始めてきている。  参加のデザインで結集した「知」が、公共性を再定義する「意味のデザイン」に向かったことは、まさに創発的現象であった。次にどこに向かうかが本当に楽しみである。

■福田由美子(4章担当)
 私たちが、さまざまなまちで体験している、怒り、喜び、感動は、いったい何であるのか。「参加と創発」から「意味のデザイン」へと昇華するプロセスで、自分の環境への慈しみの心とそれを自然体で表現していく行動力、人が本来もっているそんな力にもっと光を当てることの大事さを、あらためて実感した。

■倉原宗孝(5章担当)
 たくさんの楽しさと思考が広がる委員会だった。担当章では、参加と創発、意味のデザインのテーマが孕む多次元的な豊潤の世界を、いくつもの小さな物語の光で描こうとしたのだが、力不足でまだまだ。次のチャンスでまた挑みたい。

■横山ゆりか(6章担当)
 この本の執筆にあたっては、全体について、それぞれの原稿について、委員会で何回もの議論が重ねられました。その過程で私自身、錚々たるメンバーの方々から随分と多くを教わり、考えさせられました。委員会自身が「意味のデザイン」の場であったと言えるかもしれません。読者の皆様にその幾らかでもお伝えできれば光栄です。

■伊藤雅春(8章担当)
 参加のデザインへの旅は、7年を経て意味のデザインにたどり着いて終わった。この道はコミュニティデザインの世界に続く道であることを感じつつ、次なる実践におもむこうと思う。この思索の成果は、デザインの拡張の作業に他ならない。同時にデザインという行為を意味づけする作業でもあった。デザインと市民を結ぶ道がここにある。

■森永良丙(9章担当)
 建築・まちづくりにおいて、人間と環境の関係の中味は、まだまだわからないことが多い。いや、実はとても簡単なことかもしれない。一方で、強い意志をもって思考し行動しなくてはならない場面もある。創造の局面もまたそうだろう、等々。メンバーの発話と態度から改めて学んだ数年間でした。これからにつなげられたらと思います。

■連 健夫(10章担当)
 とても刺激的で創造的な委員会でした。自由に意見を出し合い、内容を練る行為は、ワークショップそのものでした。  AAスクールで学んだプロセスを大切にすることは、「建築に意味を与える」ことだと考え、意味の建築づくりをしている中、この委員会に出会い、執筆の機会につながりました。

■秋元 馨(11章担当)
 立場や個性が異なる人たち複数が参加してその協働がうまくいくとき。そして、一個人の創造力がうまく働くとき。その双方における知のメカニズムには、設計方法として相通ずるものがあると思っています。

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 本書は、日本建築学会建築計画本委員会のもとにおかれた「参加と創発のデザイン小委員会」の活動にはじまっている。その設置目的は、次のようであった。
 参加のデザインはそのプロセスにおいて、人間と環境、及びそれらの関係の新しい質が同時的に、または、相互発見的に創り出される「創発」現象をもたらす。本研究は、参加のデザインが、生命のように「時として新たな質の創発」を現すための方法論を編み出すことを目的とする。内容としては、過程(ソフト)と造形(ハード)が一つに調和するしくみ、モノのはたらき(機能)に加えて心のはたらきを備えた有機的空間成立の条件、創発的方法の枠組、等の解明にわたる。
 1996年4月から2000年3月の期間、主査・延藤安弘(千葉大学)、幹事・伊藤雅春(拒蜍v手計画工房)、委員・乾亨(立命館大学)、北原啓司(弘前大学)、倉原宗孝(北海道工業大学)、重村力(神戸大学)、早田宰(早稲田大学)、4830田光雄(京都大学)、長沢悟(日本大学)、西田徹(武庫川女子大学)、畠中洋行(若竹まちづくり研究所)、林泰義(褐v画技術研究所)、福田由美子(広島工業大学)、横山俊祐(熊本大学)、横山ゆりか(東京大学)のメンバーで議論をすすめた。
 その論議の成果を生かしつつ、さらに、2000年4月には「意味のデザイン小委員会」として再編し、次のねらいのもとに継続的活動を行なった。
 本小委員会の目的は、住民・行政・専門家参画のコミュニティデザインにおける意味作用の生成モデルを明らかにすることにある。意味のデザインは、建築・環境づくりにおいて、機能レベルをこえて、〈生活づくり〉〈空間造形〉〈意識づくり〉の3レベルを包括的に扱うことによって、新しい時代の計画学の地平をひらく。意味のデザインの最も重要なコンセプトは、「純粋経験」(自発的で質的に連続的な変化)である。コミュニティデザインの現場にたちあらわれる意味を具体的にすくいあげ、研究と実践の橋わたしを行うことに、社会的・学術的意義がある。
 メンバーは、主査・林泰義、幹事・森永良丙(千葉大学)、委員・秋元馨(横浜国立大学)、伊藤雅春、乾亨、延藤安弘、北原啓司、倉原宗孝、福田由美子、連健夫(鋸A健夫建築研究室)、横山俊祐、横山ゆりかである。
 本書は、両委員会の活動全体、とりわけ後半の小委員会活動の実りを束ねたものであるが、前半の論議に参加された委員の方々のご協力に謝意を申し上げたい。さらに、出版を引きうけていただいた学芸出版社の担当の前田裕資氏と永井美保氏に深い感謝の念をささげたい。
 読者諸氏の大方の批判と叱声をお願いすると共に、各方面の参加のまちづくり・まち育ての新しい実践的理論的動きがおこるならば筆者達としては望外の喜びである。
2003年3月
延藤安弘