都市再生の都市デザイン
あとがき
本書は1998年6月に東京大学に博士論文として提出した「都市開発プロジェクトにおける都市デザインの技法と実現手法」をより簡潔に取りまとめたものである。
著者が大学院で勉学していた1960年代半ばは、わが国における都市デザインの黎明期であったと言ってよい。英国をはじめヨーロッパにおける多数のニュータウン・プロジェクトや、米国ハーバード大学におけるアーバン・デザイン学科、カリフォルニア大学バークレー校における環境デザイン学科の創設等欧米において朧げに見えつつあった都市計画、建築の新たな切り口が、様々な文献を通じてわが国に紹介されつつあった。当時著者が在籍した丹下研究室の先輩、磯崎新、渡辺定夫、曽根幸一、また隣の高山研究室の先輩である川上秀光、森村道美、土田旭等の諸兄や同輩とともに、アーバン・デザインの何たるかを考え、アーバン・デザインは建築と都市計画から独立した新たな領域を切り取り得るか、またその広がりは、果てはアーバン・デザインは職能たり得るかに至るまで議論したことをよく覚えている。
この時期において、著者は都市開発の事業手法の違いがもたらす都市空間の差異について興味を持ち、充分に消化しないまま、関連する文献や自らの考えを書き留めるためのファイルを特別に用意したりしていた。振り返ってみれば、著者において本書の主題は、この時期のぼんやりした関心に遡ると思われる。
それ以来、著者は都市空間を構成していくこと、そしてそれを現実のものとしていくことに関心を持ち、ハーバード大学デザイン系大学院での勉学の時期や、その後の米国における実務、また帰国後の丹下先生が主宰する都市・建築設計研究所における内外の都市開発プロジェクトへの参加の機会を通じて、都市デザインについて研究し、また実践してきた。この間、丹下先生や大谷先生、ハーバード大学のソルタン教授、そして多数の諸先輩、同僚から都市デザインについて様々に教えていただいた。
その後、1973年に鞄本都市総合研究所を設立し、現在に至っているが、実務を通じて都市計画や地域計画、都市開発事業に係わるわが国の諸制度について様々勉強することができ、また、本書で取り上げた都市開発プロジェクトをはじめ、都市デザインに係わる業務に多数取り組む機会を得た。
本書は、こうした経験、実践を通じて得た著者の考えをまとめたものであるが、その切っ掛けは、川上秀光東京大学教授(当時)が始められた「高度成長期都市計画研究会」であり、またその後、約4年ほど前、建設省の「都市デザインのための人材養成に関する研究会」等において、都市開発プロジェクトにおいて都市デザインへの取り組みが時宜を得て、また的確になされていないこと、またこれは、都市開発プロジェクトにおける都市デザイン展開の体系や技法、実現手法が知識、経験として充分に持ち合わされていないことが原因していると改めて認識するに至ったことである。そして、このような状況に対して、著者のこれまでの経験や知識を体系的に取りまとめることは、都市デザインに関係する人々や後輩に何がしかの知見をもたらすのではないかと思うに至り、これが大きなインセンティブとなった。
このような問題意識から、本書もまた都市デザイン展開の体系を明らかにし、また各段階における都市デザインの取り組みの技法と実現手法について述べているが、上述のような認識からこれらについてまずその骨格を明らかにすることに主眼を置くこととした。従って、その細部はまだこれからの状況にあり、第6章に記したようなこれからの研究テーマも多い。
本書を取りまとめることができたのは、上述のような多くの先生や諸先輩、同輩から長年にわたって様々に教えを受けたこと、そして多数の都市開発プロジェクトにおいて都市デザインに取り組む機会に恵まれたおかげである。これらの諸先輩、同輩に感謝申し上げるとともに、多様な都市開発プロジェクトにおいて都市デザインの展開に共に取り組んだ委託機関並びに関係機関の方々、さらに計画、設計案の取りまとめに共に苦労した筆者の事務所のスタッフ、様々に協力を得た他事務所の皆さんにお礼申し上げたい。
また、学芸出版社の前田裕資さんには本書の構成について様々なアイディアをいただき、時間管理に気を配っていただいた。さらに同社の三原紀代美さんには念入りに文章、図版のチェックをしていただいた。ともに感謝の気持ちで一杯である。
2001年立春
加藤 源
学芸出版社
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