聴く! 技術士二次試験 一発合格のツボ



はじめに


 もしかしたら、あなたは、
 「俺は、技術士なんかにはなれそうにないなぁ…」
と、思い込んではいないだろうか。
 「文章なんて苦手だし、大した業務経験もないし…」
 「だいたい仕事が忙しすぎて時間もないし、無理だよなぁ…」
などと、勝手に未来を決め込んではいないだろうか。
 結論から言う。
 次の技術士二次試験で、あなたは合格する。
 あなたは、惚れ惚れする業務経歴票を携えて意気揚々と筆記試験に臨み、スラスラと淀みなく合格答案を書き上げ、そして口頭試験で試験官が思わず唸るような回答を繰り出してしまう。
 これは、疑いようのないあなたの近未来の事実だ。
 今のあなたは、まだ、この未来の事実をいぶかるかもしれない。
 確かに、あなたが今まで歩んできた軌跡を振り返ってみたら、このことに疑念を感じてしまうのもわからないではない。
 ただ、あなたがそうした過去の呪縛から逃れ、新しい着想のもとで、新しい“ノウハウ”を知ってしまったとしたのなら…今のあなたには想像し得ない未来に到達してしまうのは、むしろ当たり前ではないか。
 その、今のあなたが想像し得ない未来こそ、「次の技術士二次試験で、あなたは合格する」という未来なのだ。
 それでもまだ、疑念は拭えないかもしれないが、今はまだそれで良い。
 ただ、本書の読後、その深い疑念は驚くほど完璧にあなたの脳裏から払拭されているだろう。
 ご紹介が遅くなったが、本書は、2011年3月10日、あの東日本大震災の前日に発行した『聴く! 技術士二次試験論文のツボ』の後継版である。兼ねてより多くの方々から改訂版のご期待を頂いていたのだが、この新版をもって、ようやくそれにお応えさせて頂くこととなったものである。


●哲学科出身のダメ技術者が一発で合格し続けたワケ
 冒頭から突拍子もないことを述べてしまったが、そんなことを言う私は、実は文系の出身だ。
 しかも、経済学部や法学部などの実学ではなく、それとは正反対の、文学部、しかも哲学科という、文系のなかでも最も抽象的な分野が、私の出自だ。
 小学生の頃から算数が大の苦手で、テストがあると空欄ばかりの答案を前にいつも頭を抱えていた。そんな一方、国語の教科書に出てくる森鴎外や松尾芭蕉などの小説、詩歌に魅了され、先生の声がだんだん遠くなり、いつの間にか、その世界に引き込まれ夢想にふけることがしばしばあった。
 そんな私がなんとなく進学したのが、哲学科だった。
 しかし、バブル期とも相まってフワフワしていた私は、当然のごとく進路に思い悩むことになり、みんな就職するのだからと、何のこだわりもないままに就職活動をこなし、一番初めに内定を頂いた機械メーカーの営業職に就いた。
 しかし、配属先の大阪で私を待ち受けていたのは、何とも遣る瀬ない日々だった。
 昼は顧客の「ジブン何してくれてんねん!!」の恫喝に怯え、夜は先輩社員の「飲みに行くぞー! つきあえ!!」の命令に苦しみ、お金も時間も、喜びも、何も残らない生活を送る毎日だった。
 「俺の人生は、このまま、終わってしまうのかなあ」と、悶々とする日々を送っていた。ただ、そんな現状を何とか打開したいという焦燥感には常に駆られていた。
 そんなある夜、相変わらず顧客の叱責を受けてブルーになっているところを先輩につかまって、「ちょっと一杯いけへんか?」。
 大阪の難波駅近くの居酒屋。
 先輩が繰り出す会社批判、同僚批判に愛想笑いを浮かべ続ける虚無な時間が過ぎ、ようやく解放され我に返った夜の10時過ぎ…。
 そんな時でも何か打開の糸口を掴みたかった私は、ふと、目の前にあった閉店間際の書店に入り、たまたまある本を手に取った。
 旧建設省の関正和(故人)さんという方が書いた『大地の川』という本だ。
 実はこの本、河川分野で、三面コンクリート張りの川に自然を回復させるという概念を定着させた、有名な1冊だった。
 本屋で吸い込まれるように数十ページをサーっと立ち読みした私は、帰りの電車のなかでも、一人暮らしの部屋で夜が更けゆくのも構わず、何かにとり憑かれたように、一気にその本を読み切ってしまった。
 読了したのは、未明の静寂のなか。
 私の心に、とうとうブレイクスルーが起きた。
 「自然を回復する…なんて素晴らしい職業があるんだ!」
 当時二十代後半だった私は、年齢も省みずに大学工学部に学士入学する決意を固め、そして土木業界、それも、川をきれいにする下水道の世界へ飛び込むことになったのだ。
 ……
 しかし、技術者になりたての私を、新たな苦しみが待ち受けていた。
 「君は、経歴が経歴だからもうちょっとがんばるかと思っていたけど…、まあまあだね…良くも悪くもない…」
 「今年も、私の後輩で、君みたいなちょっと変わった経歴の人の入社の話があったけど、私は合格させなかったよ」
 これは、当時の上司の言葉だ。
 恥を晒すようだが、数理的な感覚に疎い私は、専門知識の不足に起因するものから単なるケアレスミスまで、実に多くの失敗を繰り返してきた。業を煮やした顧客から私の上司に直接クレームが飛んできたこともある。そして、そのクレーム処理票が社内のクレーム対処法の見本として公表されてしまったことすらある…。
 当時の上司の指摘は、残念ながら的確だったのだ。
 だが、私は、決して手を抜いていたわけではない。むしろ、誰よりも真剣だった。だからこそ、誰よりも苦しかった。
 原因は、センス、実力、人間関係など、いろいろとあったのだろう。
 ただ、自分に対する期待が大きかった分、次第に厭世観が強まり、どん底へと転がり落ちたまま、一向に浮上する気配がなかった…。
 そんな私が、なぜか一発合格を続けてきたのである。
 技術士補、下水道技術検定一種、技術士(上下水道部門)…。
 そして総合技術監理部門の時には、一発合格については自分でも“きっとそうなるだろう”というがいぜん性を感じながらの受験となった。
 そして案の定、合格した。
 その年は、直前まで多忙を極めていて、ほとんど学習らしいことはできなかったのだが…。
 これは、明らかに運ではない。実力でもない。
 では、一体何なのか。それは…、ノウハウを持っていたからである。
 それまでの受験体験をベースにして技術士受験におけるノウハウをつくり上げ、そしてそのノウハウを実践していったことが、一発合格という結果をもたらしたのだと思っている。
 私は、本書のなかでその一発合格のノウハウをあなたに授けようと思う。

●あなたに必要なのは、根拠のない自信
 ただ、誰にも彼にもこのノウハウを授けるのにはためらいがある。
 なぜなら、このノウハウは、私が自分自身の人生を真剣に考えて、必死の思いで築き上げたものであり、私自身の宝物であるからだ。
 だから、自分自身と向き合わず、家族を大切に考えず、単に楽して技術士試験に合格できさえすれば良いと言う人に伝えたいとは、決して思わない。
 たとえどのような対価が用意されていようとも、そうは思わない。
 その一方で、自分の力でなんとか人生の壁を打開したい、這い上がりたい、と真摯に考え、そしてそのために必要な努力を惜しまない人には、果てしない同情を感じ、私のような者が持つノウハウでよければ、隅から隅までさらけ出したいという気持ちを抱いている。
 私は、あなたは後者であると信じる。
 ならば、私のこの期待に応えてみてはどうか。
 少なくとも、「自分には一発合格なんてできないかも…」などと、最初から可能性を狭めてしまうようなことだけは、決して考えないでほしい。
 禁物だ。すべてにおいて、この後ろ向きな考え方は、厳禁だ。
 成功は、あなたが「自分もなんとかなるかも…」と根拠のない自信を持つことに萌芽するものなのだから。
 そのようなあなたに本書でお伝えする技術士二次試験の一発合格のノウハウは、実はすべての技術部門において共通なもの、普遍的なものである。
 技術部門の相違というのは、単にそれぞれが保有する知識のジャンルが異なるだけであり、その知識を駆使して問題を解決し課題を遂行するプロセスについては、まったく同じである。
 部門は違えど同じ技術士なのだから、そうでなければおかしい。
 そのようなことから、本書ではそれぞれの技術部門の技術者として保有すべき専門知識そのものについては収録の対象としていない。
 ただ、本書では、この専門知識について、きわめて効率的に習得する手法をあなたにお伝えする。
 このような本書は、あなたが一発合格するために必要な努力を惜しまないことを前提に、たとえ今のあなたがどのようなレベルにあったとしても、筆記試験当日になんとか合格の可能性が60%に達することを目標に、不必要な努力を排除することを第一に考え、執筆したものである。
 したがって、本書を手に取ったというあなたの小さな行動は、おそらくあなたの未来を切り開いていくことになるだろう。
 ぜひあなたも、本書をもとに堂々と根拠のない自信を抱き、後ほど示す超効率的な学習を行って、技術士二次試験に悠々と一発合格しようではないか。

●あなたの現状がどうであろうと、まったく心配する必要はない
 あなたは、きっと民間企業や官公庁、各種団体などにおいて理工系の専門分野で働いている技術者なのだろう。
 かつては高校もしくは専門学校、大学や大学院で理工系学科の学業を修め、いまの技術職に就いているのだろう。そんなあなたの子供の頃は、私と違って国語より算数、社会より理科が好きだったのではないだろうか。
 ならば、もしかしたら今のあなたは“文章を書く”という行為を苦手だと感じてはいないだろうか。
 もしそうだとしたら残念なのだが、後述するとおり、この技術士二次試験では、一級建築士試験などとは異なって“論述力”が大きなポイントになる。
 冒頭に述べたとおり、本書の著者である私は元々文系の出身である。その属性は、悲しいことに未だに抜け切っていない。
 というのは、報告書の作成など文章を書く作業は嫌いではないのだが、こと数理的根拠をもとにして考察を加えるような作業は、恥ずかしい話、滅法弱いのが正直なところだ。
 はっきり言って、向き不向きで言えば、このような工学的技術を売りにする職業は私には向いていなかったかな…とも感じている。
 あなたは、きっとそんな私のような深刻な状態にはないだろう。おそらく、技術を売り物にする今の職業に対して私ほどの違和感は感じていないことだろう。
 しかし、文章を書くという面では、どうだろうか。
 私のような変わり種が比較的得手としているのに対し、あなたも含めた多くの技術者は、作文を不得手だと思い込んではいないだろうか。
 あなたは学生時代に卒業論文の作成を経験しているかもしれないが、理工学系の場合、あくまでも研究成果の内容や論拠となるデータの客観性などといったものについて正確であることが求められ、その研究の意義やデータの客観性をいかにわかりやすく表現するかということについて、考えを巡らせたことは、あまりなかったのではないだろうか。
 そんなあなたが、論述が大きなポイントとなる技術士試験にこれから挑もうとしているのだ。
 「筆記試験が記述式問題ばかりになって、ハードル高そう…」
 「アピールするほどの立派な業務経験なんてないし…」
 「そもそも、仮に合格したって技術士をやっていける自信ないし…」
などと、思い込んではいないだろうか。
 繰り返すとおり、自分の可能性を狭めるこのような思考は禁物だ。
 …もっとも、あなたの不安も、わからないではない。
 確かに、私がこれまでに依頼されて添削した業務経歴票などを振り返ってみても、論旨が明快で自分の考えを相手に訴えるような迫力のあるものは少なく、上出来であっても淡々と事実関係だけを並べ続ける、いわゆる「業務報告」にとどまっているものが多い気がする。
 なかには、内容以前に、作文として驚くほどレベルが低いものもある。
 もしかしたら、あなたにも当てはまっているのかもしれない…。
 ただ、心配することはない。あなたの現状がどうであろうと、まったく心配する必要はない。
 なぜなら、「君には技術者としての適性が感じられない」と上司から烙印を押されたような私ですら、あるノウハウを実践することによって、技術系資格試験をすべて一発で合格してきた実績があるのだから。
 私は、あなたに、本書を通じて度重なる試行錯誤と幾多の挫折のうえにつくり上げた技術士二次試験における一発合格のツボをお伝えする。
 あなたは、私の示すノウハウを実践しながら、技術士合格への道を短期間に突き進み、来春以降はもう技術士として活躍されていることだろう。

●あなたの本当の勝負は、技術士になってからのその先にある
 あなたは次の技術士試験において、おそらく合格という成果を手に入れる。それは、未来のこととは言え、もはやほとんど決まっている予定のようなものだ。
 あなたは、その“未来の事実”を、決して疑ってはいけない。
 なぜならそれは、技術士試験はあなたの成功のための1つのステップに過ぎないからである。
 では、そもそもあなたは、何のために技術士の資格を取得しようとしているのだろうか? みんなが取るから、あなたも何となく取るのだろうか。
 技術士の資格をとって、今までと同様、いや、今までよりもなお一層、業務に忙殺されるだけの毎日を送りたいのだろうか。
 上司や顧客の顔色を伺いながら、辛い思いをして膨大な業務をこなす毎日…それが果たして目的なのだろうか。望んでいる姿なのだろうか。
 そのような努力があなたに“シアワセ”をもたらすのだろうか。
 あなたが「技術マニア」なのであれば、それで良いのかもしれない。
 しかし、あなたはどうなのか?
 あなたは、そのような単なる「技術マニア」で終わる人生を送って、果たしてシアワセになれるのか?
 これを機に、一度真剣にあなた自身に問いかけてみてほしい。
 他ならないあなたの人生なのだから。
 あなたは組織のコマとして、組織が繰り出す方針や命令に唯々諾々と従い続け、家族とわが身を犠牲にして、組織の都合を最優先にするような生涯を歩むのだろうか。
 それとも、組織の常識に依存せず、あなた自身の価値基準をもとに能動的な判断を繰り返し、組織と共に成長していく人生を選択するのだろうか。
 私は、前者のような人生を否定しないし、無意識のうちにそのような判断をしている人が大多数であることも、事実であろう。
 しかし、大事なことは、「一体、自分はどう生きたいんだ?」というQuestionを、人生も半ばに差し掛かりつつあるような自分に対して改めて投げつけるだけの勇気があるかどうか、なのである。
 無論、あなたにとっての成功とは、あなた自身がシアワセな人生を送ることに他ならない。シアワセをもたらさない出世や財産は、何ら成功の尺度とはなり得ない。
 あなたはきっと、今後の自分の歩む道を真剣に考えてくれるだろう。
 そんなあなただからこそ、技術士試験などという、こんなつまらないモノで躓いていてはいけないのだ。
 技術士など、あなたの人生のなかでは単なる通過点の1つに過ぎない。
 むしろ、あなたの本当の勝負は、そこから先にあるのだ。
 前置きが随分長くなったが、あなたが本書で一発合格のノウハウを知り、それを実践すれば、技術士試験において無駄な時間を浪費することも、躓いたまま立ち直れなくなることもない。
 それだけではなく、これから能動的な生き方を実践していくために必要なコミュニケーション能力を身につけることもできる。
 ならば、あなたはもはや単なる技術者としてではなく、組織のなかで自立したビジネスマンなのだという自覚のもとで、技術士に合格するプロセスを辿っていくべきだと私は考えるが、どうだろうか。
 それでは早速、最初の一歩を踏み出そう。