ローカルメディアの仕事術
人と地域をつなぐ8つのメソッド

おわりに

 『ローカルメディアのつくりかた』を出版して以来、改めて全国でメディアづくりを志したり既に携わる人々と話をしていると、抱えている課題や知りたい情報がさまざまにあることがわかってきた。例えば、既にメディア企業として地域に根を下ろしている新聞社、テレビ局、タウン誌などの出版社は、これまでと違う収入の経路を確保したり、これまで一方通行だった読者との関係を結び直したいと考えているし、行政やNPOは漠然とメディアがまちづくりに役立つと理解しているけれど、どんな「かたち」なら地域課題を解決するか、どんなスキルをもつ人材を確保すればいいかについて考えを巡らせているし、個人は自己表現のため、もしくは仲間づくりのためにメディアづくりに手を出そうと考えている。そのため二章では、各地でメディアづくりに携わるプレイヤーに実際に寄稿していただき、それぞれの課題に応える実利的なノウハウを提示したつもりだ。
 一方、ローカルメディアについて考えたり事例研究を進めていくと、これまでのマスメディアのような「一方的な情報発信媒体」としての性格をローカルメディアは持たなくなってきていると考えるようになった。「メディア」の役割が拡張している。メディアにできることはもっとたくさんある。ルールがないローカルメディアの新しい価値の側面を知ってもらうために、三章では改めて最近気になっている各地のメディアのつくり手に取材し、コミュニティや文化を醸成するためのメディアの役割について考察した。
 二章で紹介した実践的なスキルを身につけつつ、三章で紹介したようなメディアの役割をもう一度考えて欲しい。各地でメディアを立ち上げたいと思う人は、目先の利益や話題性ではなく、コミュニティを攪拌し、地域の文化をつくる担い手としてメディアを使う手立てを、それぞれの仕方で身につけていってもらいたい。
 前著『ローカルメディアのつくりかた』から引き続き、本書の編集を担ってくださった学芸出版社の井口夏実さん、ありがとうございました。まちづくりにメディアが役に立つ、という仮説を実践的にも事例研究としても明らかにしたいと考えていたので、本書の制作プロセスはとても有意義なものとなりました。
 また、二章の編集術実践編において、個別具体的なメソッドを、ご自身の経験に引き寄せながら執筆くださった幅允孝さん、多田智美さん、原田祐馬さん、原田一博さん、成田希さん、小松理虔さん、山崎亮さんにも感謝申し上げます。
 本書が、各地でメディアづくりを志す人にとって、それぞれの地でユニークなメディアを生み出していく手立てになることを願っています。そして僕自身も一人の編集者として、各地で新しいメディアのかたちを模索していきたいと思っています。

2018年4月 影山裕樹